心と体

2016年10月11日 (火)

パーキンソン病を治す

パーキンソン病を治す本 新潟大学 安保教授 より抜粋

現代医療でも、バーキンソン病の克服には、薬物療法とともに運動療法などのリハビリテーション(機能回復訓練)が重要であるとの認識が高まってきています。本書はそのうちの主に後者にスポットを当てたもの、と考えていただければわかりやすいかもしれません。

バーキンソン病の発症・進行の背景には、自律神経(意志とは無関係に体の働きを費整している神経)のバランスの乱れが存在し、薬に頼らなくても運動を含む生活療法、あるいは自律神経のバランスを整えて血流を促す治療によって症状を改善し、進行を食い止めることができる病気であるという事実を、私と開業医の福田稔先生の共同研究によって確立した「福田-安保理論」を土台に立証していきます。

「薬に頼らず自分自身のカで治す!・・その信念を持って前向きに付き合っていくなら、バーキンソン病は決して恐れるべき病気ではないと私は信じています。バーキンソン病と診断された人、現在の治療に不安や疑問を感じた人は、病気と正しく向き合う道しるべとしてこの本を役立てていただければ幸いです。

パーキンソン病が起きるしくみ

人の体が思ったように動くためには、動かそうとする力と止めようとする力の微妙なバランスが必要です。線条体では体を動かそうとするドーパミンという物質と、体の動きをおさえようとするアセチルコリンという物質の割合によって、そのバランスをコントロールしています。バーキンソン病は、この線条体のドーパミンが減少することによりアセチルコリンが増加して、体を動かそうとする力と止めようとする力のバランスが崩れたときに起こります。すなわち、ドーパミンが滅って体を動かそうとする力が弱くなり、その-方ではアチルコリンが増えてからだを止めようとする力が強くなる為、自分から動こうとすることが極端に減ったり、動けなくなってしまうのです。

また振戦は、線条体の中の細かい運動の制御に関係してしに起こると考えられています。ひとことでいえば、ドーパミンは器械を動かす油のようなものです。

<黒質の変性がドーパミン不足をもたらす。>

黒質の神経細胞からはそれぞれ長い突起が出ていて、線条体とつながっています。その突起の先から線条体に向かってドーパミンが分泌され、線条体の神経細胞にある受容体(センサー)がそれを受け取り‐運動指令を出していきます。すなわち、黒質の神経細胞が変性をきたし、減少すると、黒質で産生されるドーパミンの絶対量が減って、線条体ヘの供給量も不足していきます。そうして体を動かそうとする力が動きをおさえようとする力を下回るようになったとき、バーキンソン病が起こってくるわけです。

健康な人でも加齢にともなって神経細胞は少しずつ減少していきますが、バーキンソン病の患者さんの場合、ドーパミンを作る黒質の神経細胞が普通の人より若いうちから減少し、脳の中のドーパミン量が少なくなります。一般にドーパミンの量がもとの20%以下に減少すると、バーキンソン病の症状が起こるといわれています。また、自律神経症状は、中脳の黒質以外の縫線核、青斑核と呼ばれる組織に変性が起こると出現することもわかっています。

(抗コリン剤)についてのコメント☆

抗コリン剤: パーキンソン病では脳内のドーパミン不足の結果、相対的にアセチルコリンが過剰になります。この薬には、その過剰となったアセチルコリンの働きをおさえて、ドーパミンとのバランス状態を整える作用があり、とくに振戦や無動に有効とされています。ただし、副作用としてしばしばロの渇き、便秘、排尿困難などをともない、高齢者に大量に投与すると興奮・幻覚などの精神症状が出やすいことが知られています。また、長期に使用すると認知機能が低下してくる場合もあり、現在は主に振戦の強い患者さんにのみ使われています。

・・紹介者の蛇足(不足したドーパミン量にアセチルコリンを抑え、制限するということは生命力全体を衰えさせる、一時しのぎの邪道だと私は考えている。マウスの実験で脳神経活動が著しく低下した状態も拝見している。)

現在の薬物治療の効果には限界があるということを、認めざるをえないのが現実です。

にもかかわらず、医療の現場では、バーキンソン病は薬で症状のよくなる数少ない神経疾患として、長期にわたる薬の投与がさかんに行われています。2002年には日本神経学会から「バーキンソン病治療ガイドライン」が発表されて、今後はその傾向にもいつそう拍車がかかっていくことでしょう。

とりあえず症状を軽減させて、患者さんの苦痛を取り除く・・それは一見理にかなった医療行為のように思えます。しかし、その効果が一時的なものであり、結果的に病状が悪化していくのであれば、やはりその治療法はどこかが間違ってぃると考えざるをえません

また、何年、何十年と薬を使い続けるなら、少なくともその投与量は最小限におさえていくベきでしょう。しかし、L‐ドーパが効かなくなると投与量を増やし、L.ドーパの効きをよくする薬を追加して、副作用が生じれば今度はその副作用をおさえる薬が加わっていく:そんなサイクルの中で継続されているのが、現在のバーキンソン病治療の実態なのです。

<バーキンソン病を根本的に治すには

不足したドーパミンを薬で補うことで、とりあえず症状をおさえることはできるようになったとはいうものの、その一方では神経細胞もどんどん減少していく。つまり、現代医学では、ドーパミンの減少を促す神経細胞の死滅原因が突き止められていないから進行がおさえられないということで、バーキンソン病は難病とされているわけです。

しかし、少し視点を変えてみるなら、バーキンソン病は現代医学が恐れているほど難しい病気ではないことがわかります。結論から申し上げましょう。バーキンソン病は、自律神経(意志とは無関係に体の働きを調節している神経)の乱れに起因する脳の血流障害が原因の病気であり、自律神経のバランスを整えて脳の血流を改善させれば、現代医学では不可能とされている進行を食い止めることができるのです。細胞は血流によって酸素や栄養素を得ています。脳の血流が抑制されて血液が少なくなると、脳の神経細胞は酸素不足、と神経間の伝達物質の分泌力が衰え、栄養不足に陥り、活力を失っていきます。するとやがては細胞自身も死んでいく。これがパーキンソン病の原因なのです。

死んでしまった細胞は生き返らせることは出来ませんが、酸素や栄養不足で活力を失っている状態の細胞なら、そごに血液をどんどん流して新鮮な酸素と栄養を与えれば復活させることは可能です。

それにより細胞の死滅にも歯止めがかかり、バーキンソン病にともなう症状は改善されて、進行も止まるというわけです。また、バーキンソン病は老化が進むと発症する頻度が高まりますが、これには脳の動脈硬化の関与が考えられます。そして、動脈硬化を促す原因もまた自律神経のみだれにあるのです。自律神経の働きを乱す元凶はストレスです。「バーキンソン病は難病だから治らない」「家族に迷惑がかかるのが心苦しい」「動けなくなるなら死んだほうがまし」、そんなふうに落ち込んでいては、いっそう脳の血流は悪くなり、よくなるはずの病気も、かえって悪くなってしまうでしょう。

●神経伝達物質か細胞を刺激する

自律神経は内臓の働きを調整する際、交感神経、副交感神経それぞれの末端から神経伝達物質というホルモンの一種を分泌します。それらの物質が全身の60兆個の細胞を刺激し、自律神経の指令を伝えることで、細胞は目的に向かって働きを同調させていくのです。

交感神経を刺.激する物質の代表はアドレナリンです。アドレナリンには心臓の鼓動を速め、血管を収縮させて血圧を上げる作用があります。その作用によって心身は緊張・興奮し、戦闘態勢モードに入っていきます。これに対し、副交感神経からはアセチルコリンという物質が分泌されます。アセチルコリンには心臓の鼓動を遅くし、血管を拡張して血圧を下げる作用があります。これにより体のスイッチはリラックスモードに切り替わり、臓器の分泌・排泄の働きも促進されます。

交感神経が優位になっているときは、60兆個の細胞すべてがアドレナリンの作用を受けて活動モードに入り、ほとんどの物質の分泌がストップします。副交感神経が優位のときは全ての細胞がアセチルコリンの作用を受けてリラックスモードに入り、食物を分解するための醗素(体内での化学反応を促す物質)を分泌したり、老廃物を排泄していくのです。

白血球は免疫システムの主役

私たちの体には「免疫」と呼ばれる自己防御システムが備わり、ウイルスや細菌、異種たんぱく(自分の体にはないたんぱく質)、ガン細胞などの攻撃から体を守っています。白血球は、この免疫システムの中で主役となって働く血球細胞です。白血球は血液-㎡当たり50008000個ほど含まれ、その95%は「顆粒球」と「リンパ球」で占められています(顆粒球は好中球、好酸球:好塩基球に分けられるが、顆粒球全体の95%は好中球のため、本書では顆粒球〓好中球と定義する)

顆粒球は真菌や細菌、古くなって死んだ細胞の死骸など、サイズの大きな異物を食べて処理する係で、通常は血液-㎡当たり≧36004000個、白血球全体の5460%を占めています。

顆粒球の警備力はたいへん高く、緊急時には23時間で通常の23倍にも増えます。けがなどで組織に炎症があるときには、顆粒球が12万個/㎡に達し、白血球全体の九割を占めることもあります。顆粒球の寿命は非常に短く、役目を終えるときは組織の粘膜にたどり着き、活性酸素を出して死んでしまいます。活性酸素は万病の元とよくいいますが、それは活性酸素には非常に強い酸化力があり、正常な細胞を次々に破壊してしまうからです。

顆粒球の比率が正常であれば、体内には活性酸素を無毒化する仕組みがあるので大事には至りませんが、増えすぎると無毒化するのは難しくなって、広範囲で組織破壊が起こるようになります。

一方のリンパ球はウイルス等の異物を攻撃するのが得意な細胞です。リンパ球は異物を「抗原」と認識すると抗原を無毒化する「抗体」と呼ばれるたんぱく質を作って対抗していきます。通常は白血球の3541%を占め、血液1㎡当たり2200個~3000個ほど含まれています。リンパ球には様々な種類があって、それぞれ働きが異なります。

ガン攻撃を得意とするNK細胞もリンパ球の一種です。この顆粒球とリンパ球を除いた5%が「マクロフアージ」です。マクロフアージはアメーバのような形をした細胞で、サイズの大きな異物を食べて殺したり、細胞から出た老廃物を食べて掃除したりします。またマクロファージは異物をかじって相手がどのような敵か判断し、異物の端をリンパ球や顆粒球に見せて知らせる役目も果たしています。これによりリンパ球や顆粒球が活性化し、異物の排除に働く態勢が整うわけです。

 

自律神経と免疫の関係

先に、自律神経を調整する際、交感神経はアドレナリンを、副交感神経はアセチルコリンを分泌すると述べましたが、実は、白血球中の穎粒球にはアドレナリン、リンパ球にはアセチルコリンのレセプター(受容体)がそれぞれ存在することがわかっています。レセプターは細胞の膜上にあるたんぱく質の分子で、ある特定の物質を選んで結びつく性質があります。つまり、顆粒球にアドレナリンのレセプターがあるということは、顆粒球は交感神経(アドレナリン)に反応して活性化し、リンパ球は副交感神経(ァセチルコリン)に反応して活性化することを意味しています。このことから、自律神経は次のように白血球を調整していることになります。

●交感神経が優位になると、穎粒球が増えて活性化する

●副交感神経か優位になると、リンパ球か増えて活性化する

この交感神経=顆粒球、副交感神経=リンパ球というチーム編成は、生物が安全に暮らすうえで、実に理にかなったものでもあります。たとえば、交感神経が優位になっている日中の活動時には、手足に傷を負いやすく、傷口に細菌が侵入する機会が増えます。こういうときは、サイズの大きな細菌を食べてくれる顆粒球にいてもらったほうがよいわけです。

逆に、副交感神経が優位になっている夜間の休息時や食事をしているときには、消化酵素で分解された異種たんぱくやウイルスがどんどん入ってきます。これらはサイズが小さすぎて顆粒球では対応できないため、夜間は微小な異物処理の得意なリンパ球の出番となるわけです。実際、血液を採って調べてみると、昼間の活動時は交感神経が優位になって顆粒球が増え、夜間の休息時には副交感神経が優位になってリンパ球が増えています。こうして自律神経と白血球が連携することで、私たち人間は環境の変化に順応し、命を存続させる最良の状態を作り上げてきたのです。

ストレスによる自律神経の乱れか病気をつくる

●病気の七割以上は交感神経の緊張か原因

自律神経が体を病気から守る白血球の数と働きを調節しているという「福田-安保理論」は、すべての病気は自律神経の乱れによって引き起こされることを意味しています。

自律神経は健康なときでも一定のレベルに固定することなく、環境や状況の変化に対応して交感神経から副交感神経へ、副交感神経から交感神経へと揺れ戻ることで体のバランスをとっています。そして、それに連動して顆粒球とリンパ球の間でもバトンタッチが起こっているわけです。こうした自律神経の揺れは、生体にとってきわめて自然で健康な反応でもあります。シーソーのように一方に大きく傾いたあとは、もう一方に大きく傾く。この揺り戻しのバランスが保たれている限り、私たちが病気にかかることはなく、体調も良好に保たれます。問題は私たちの周囲には、いわゆるストレスという自律神経の揺り戻しのバランスを乱す要素が数多く存在していることです。この場合のストレスには、働きすぎや睡眠不足、対人関係による葛藤、心の深い悩みなどの心身のストレスに加え、薬の長期使用、排気ガス、農薬、環境ホルモン、電磁波なども含まれます。これらのストレスは自律神経のうちの主に交感神経を刺激して、過度な緊張を促し、副交感神経への戻りを悪くします。こうして自律神経が交感神経優位に傾きっぱなしになり、揺れ戻しのバランスが乱れてくると、副交感神経支配の消化器機能が低下して食欲不振や便秘に陥ったり、あるいは交感神経支配の循環器系の働きが亢進(さかんになること)して激しい動悸、不安感、切迫感などに見舞われるようになります。そして、ついにはいつも疲れた慢性疲労の世界に入り、さまざまな病気を発症させる引き金になっていくのです。私は、病気の少なくとも70%は、これらのストレスによる交感神経の過緊張によって起こっていると考えています。肩こり、腰痛などの不定愁訴からいわゆる生活習慣病、ガンにいたるまで、現代人が抱える病気のほとんどがここに掲げられているのです。そして、それらの中にバーキンソン病が含まれていることに、みなさんは気づかれたでしようか。

交感神経緊張状態かもたらす四悪

交感神経が一方的に緊張して自律神経のバランスが乱れると、免疫をつかさどる「自律神経―白血球」の連携があだとなり、次のような障害を引き起こしていきます。

①顆粒球過多による活性酸素の大量発生による組織破壊

自律神経のうち交感神経は、顆粒球の数と働きを支配しています。ストレスで交感神経の緊張が続くと顆粒球が増加して、そこから強力な酸化力を持つ活性酸素が大量に産生されます。それらの活性酸素が細胞を次々に酸化し、殺傷していくことで、組織破壊が拡大します。ちなみに、私たちの体内では呼吸で得た酸素から発生する活性酸素、細胞の新陳代謝から生じる活性酸素など、さまざまなルートで活性酸素が産生されていますが、活性酸素全体の比率では、穎粒球から放出されるものが七-八割を占めます。したがって、顆粒球が増加すればするほど、組織破壊も進むことになります。

②血流障害

交感神経が分泌するアドレナリンは、血管を収縮させる作用があります。そのため、交感神経の緊張が続くと、細胞が持続的にアドレナリンの作用を受けて全身で血流障害が起こつてきます。血液は全身の細胞に酸素と栄養を送り、老廃物や体にとつて不要なものを回収してぃます。血流障害によってこのサイクルが阻害されると、細胞に必要な酸素や栄養が届かず、老廃物が停滞するようになります。その結果、痛み物質や疲労物質がたまれば痛みやこりなどが現れますし、発ガン物質や有害物質が蓄積すれば発ガンを促します。それと同時に細胞そのものの活力も衰え、働きが低下していきます。

③リンパ球の減少

白血球中の顆粒球とリンパ球の比率は、その人の自律神経のバランスによって変動します。顆粒球とリンパ球は、いつも逆転した動きを示します。交感神経が緊張すると、副交感神経の働きがおさえられます。その結果、副交感神経の支配下にあるリンパ球の数が減り、働きが低下して、カゼをはじめとするウイルス感染などが起こりやすくなります。また、ガンを殺すNK細胞などの活性も低下します。

④排泄・分泌能の低下

交感神経が緊張し、副交感神経の働きがおさえられると、臓器・器官の排泄や分泌機能が低下します。これにより便や尿などが排泄しにくくなったり、各種ホルモンの分泌異常が起こったりするようになります。交感神経の緊張は、以上の①~④の障害を連鎖反応的に引き起こし、病気を発症しやすい体調・体質をつくり上げていきます。バーキンソン病も同じです。交感神経緊張状態が継続されるなかでこれらの障害がバーキンソン病を発症しやすい体質をつくり上-げ、老化とともにやがてその引き金が引かれることになるのです。

パーキンソン病は脳の血流障害で発症する

バーキンソン病の患者さんの脳内では、ドーパミンという神経伝達物質の減少が認められます。このため現代医学では、脳内ドーパミンを産生する黒質にスポットを当てて、バーキンソン病の原因究明がさかんに行われています。しかし、それが黒質であれどこであれ、細胞が障害される原因を突き詰めるなら、最終的には血流障害にたどり着きます。細胞は血液の循環を介して新鮮な酸素と栄養を受け取り、老廃物を排泄することで生命を保っています。もし血液の流れが停滞して酸素と栄養が届かなくなればその細胞は生きる糧を失い、やせ衰えて、やがて死滅していくしかないわけです。こうして細胞自身が起こす死をアポトーンスといいます。バーキンソン病も「脳の血流障害によって神経細胞のアポトーンスが促され、神経伝達物質の分泌が減少して発症してくる病気」ととらえれば、非常に理解しやすいのではないでしようか。さらに、「神経細胞の中でもドーパミン産生細胞は脳の中でも血流を豊富に要求し、血流障害の影響を受けやすい」と考えることで、バーキンソン病の患者さんの脳内でドーパミンが特異的に減少しているという現象に対しても、いちおうの説明はつくわけです。では、脳の血沈障害はどうして起こるのでしようか。ここで自律神経と白血球の関係を思い出してみてください。自律神経は白血球の数と働きを支配しています。自律神経のうち交感神経が優位になると、顆粒球が増えて活性化するということでした。交感神経と副交感神経がバランスよく働いているときの白血球は、顆粒球5460%、リンパ球3541%という比率に保たれています。しかし、交感神経の過度な緊張が続くとこの比率も乱れ、顆粒球の割合が高く、そのぶんリンパ球の割合が低くなります。すなわち、白血球中の顆粒球、リンパ球の比率を見ることで、自律神経の状態は容易に把握することができるのです。

ここ数年は福田先生に賛同し、自律神経免疫療法を行う医師も増えています。福田先生を含め、彼らは口をそろえたように「バーキンソン病患者の白血球は顆粒球過多だ」といいます。このように白血球が顆粒球過多の状態にあるということは、バーキンソン病はまぎれもなく交感神経の緊張によって引き起こされる病気であることを示しています。つまり「交感神経が過度に緊張しているために脳の血流が悪くなりパーキンソン病の発症に至ることになるわけです。

このように、交感神経の緊張は血管を収縮させて機能的な血流抑制状態をつくり出すと同時に、それが長期に続くことにより、今度は活性酸素によって動脈硬化という器質的な血流抑制状態をつくり上げていきます。その影響が脳血管に及んだときにパーキンソン病という病気が発症してくるわけです。

交感神経の緊張を促す元凶は、働きすぎや、心の悩みに代表される、心身のストレスです。ガンは23年という比較的最近の強烈なストレスが引き金となって発症するケースが多いのに対し、動脈硬化という老化にともなうパーキンソン病は、強度的にはガンの引き金となるストレスと比べるとゆるやかなストレスが長期的に継続する中で形成される病気といえます。パーキンソン病の患者さんには性格的に「がんばり屋さんが多いのですが、ときには頑張りすぎが見えないストレスとなって、バーキンソン病を発症しやすい体質を作り上げているといえます。

L-ドーパ製剤はパーキンソン病を難治化させる。

交感神経が緊張状態にあると分泌される物質にはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの三種類があり、これらはまとめてカテコールアミンと呼ばれています。アドレナリンが分泌されると心臓の鼓動が高まり、血管は収縮して血圧が上がり、体は元気な活動モードに入ります。ドーパミンも交感神経を刺激し、緊張させる物質なので、分泌が促されると体は元気になります。もちろん、こうして体の中で自然に分泌されるドーパミンには問題はありません。ところが、L‐ドーパを飲むと一瞬にして体内のドーパミンの量が上昇し、交感神経が緊張することになります。L‐ドーパによるドーパミンの上昇は、脳だけでなく体全体に影響が及びます。その結果、もともと交感神経緊張状態にあって、脳の血流が低下しているバーキンソン病の患者さんは、いっそう激しい-父感神経緊張状態に陥ることになります。つまり、L-ドーパによって無理やり緊張を強いられた交感神経がさらなる脳血流の低下を促し、神経細胞のアポトーシスを促進するため、結果的に病状も悪化することになるわけです。

こうして自律神経に注目すれば、「パーキンソン病と診断された患者さんが治療をすると急に悪化していく」という謎の答えも容易に導き出すことができます。このように「脳の血流障害」という原因を無視した治療は行うべきではないと私は考えます。ちなみに、問題点を明確にするため、ここでは直接的にドーパミンを補充するL‐ドーパを例にとつて説明しましたが、抗バーキンソン病薬は作用のしかたが異なるだけです。いずれも最終的な目的は脳内のドーパミンの濃度を上昇させることにあります。したがって種類によって程度の差はあったとしても飲めば交感神経の緊張は促されることに変わりなく、症状の悪化は免れないでしょう。

 

パーキンソン病が改善する生活の知恵

みなさんは夜ふかしを続けるほどがんばりすぎてはいませんか? 食事のリズムはきちんと保たれていますか? こうして生活パターンを見直し、本来あるべきリズムに戻したうえで、次の事柄を実践していきましょう。交感神経の緊張は、全身に血流障害を引き起こします。バーキンソン病の患者さんの場合、その血流障害が脳に強く起こっています。ここでは、日常生活の中で積極的に副交感神経を刺激しながら、脳の血流状態を改善させる方法をご紹介します。

①適度な体操や運動動で体をほぐす

バーキンソン病では徐々に筋肉がかたまり、動かしにくくなっていきます。そこで、体をできるだけ動かし、体をほぐすようにしましょう。そうすればおのずと血流も促進されて、気分転換にも大いに役立ちます。その際、息が切れるような過度な運動は交感神経を興奮させますが、軽い運動を心地よいと感じる程度に行う場合は副交感神経刺激になります。

毎日同じ体操を続けていると、たとえば「最近は音楽のテンポに合わせて体が動くようになったな」「首もなめらかに回せるようになったな」など、自分自身で確実に成果を実感することができます。それを自信にしていけば、自律神経の働きにもよい影響を与えることができます。このほか、歩ける状態であれば杖をついてでも散歩をすること、日常生活の中で首を前後左右に倒したり、左右に大きく回す体操あるいは手首をブラブラ振る体操などを、こまめに行うことを心がけましよう。寝たきりになる前にできるだけ体を動かし、血流を促進させる。それがパーキンソン病の進行を抑制し、症状の改善を促す、最も効果的で確実な道なのです。

②ゆっくり入浴を楽しむ

お風呂好きの日本人にとつて、入浴の効用ははかりしれません。ゆったりとぉ湯につかれば血流がよくなって体も温まり、疲労感や筋肉のこわばりもスーツと消ぇていきます。体もさっぱり清潔になって、心身ともに最高にリラックスできます。なお、副交感神経の働きを誘導するには、3738℃くらいのややぬるめのお湯に、のんびりとつかるようにするのがコツです。

③よく笑う

落語、お笑い番組、コメディーなど、笑いは最高の副交感神経優位の世界です。笑いを誘うものをどんどん見ましょう。笑いすぎると涙や鼻水、よだれ、さらにオナラまで出てくることがあります。これは副交感神経が刺激されて全身の排泄・分泌能が最大になっているからです。

④食物繊維豊富な食事で便通を整える

自律神経は内臓の働きを調整していますが、内臓の運動が逆に自律神経を刺激し自律神経の働きを促すという作用もあります。パーキンソン病の人の大半は、交感神経の極度な緊張症状として頑固な便秘を抱えています。つまり、この頑固な便秘を解消するよう努めることで、副交感神経の働きも促すことができるのです。そのためにもキノコ類や海藻類を積極的に摂るようにしてください。これらの食品に含まれる食物繊維(不消化多糖類)は体内では消化できません。しかし腸はなんとかこれを消化しようとして腸内にとどめて一生懸命腸を動かします。腸管の蠕動運動(内容物を先の器官に送る働き)は副交感神経刺激となり、腸が動いているときは副交感神経が優位になります。また、食物繊維は腸内で発生する活性酸素の除去にも役立ちます。

⑤水をたっぷりと飲む

パーキンソン病では頻尿や尿が出にくいなどの排尿障害もよく現れますが、これも便秘と同じく交感神経緊張症状であり、積極的に排尿を促すことで、自律神経の働きを副交感神経優位にすることができます。それには、水をたっぷり飲んで泌尿器系を刺激することが大切です。

パーキンソン病の患者さんには高齢者が多く、夜間にトイレに行くのを嫌って水分摂取を控える人が多いのですが、それは逆効果です。そもそも睡眠中に目が覚めてしまうのは、本来副交感神経優位にあるべき自律神経が交感神経優位になっているからです。むしろ寝る前に積極的に水を飲み、尿の排泄を担う泌尿器系の臓器を活発に働かせることが、副交感神経の働きを高めて熟睡しやすい状況をつくってくれます。

「爪もみ療法」の勧め

福田稔先生が「家庭版の自律神経免疫療法」として考案された健康法です。手の指先には神経が密集しており、親指、人差し指、中指、小指の四本の爪の生え際を押しもみすると副交感神経が刺激され「効果的に自律神経を調整することができます。いつ、どこででもできる簡単な療法なので、ぜひ毎日の習慣に加えるとよいでしよう。

このほか福田穂先生は
頭部血液マッサージもバーキンソン病の改善に有効であるといわれています。爪もみ療法と合わせて毎日23回行うとよいでしよう。

●頭部血液マッサージのやり方

熊手のように立てた指の腹で、頭頂部から耳の上、耳の前後、首ヘと、頭皮を上下に細かくこすりながら、血液をしごき下ろすようにマッサージする。これを四・五回くり返すのを、毎日23回行うとよいでしよう。

パーキンソン治療・兵庫県西宮市

パーキンソン病とパーキンソニズム に対する鍼灸治療

高齢社会の到来により中枢神経系の変性疾患、ことにパーキンソン病やパーキンソニズム患者は増加傾向にある。本疾患群が慢性、進行性の経過を示していることから、薬物療法を受けながらもなお、鍼灸治療を希望して来院する患者も増加していると思われる。

『パーキンソン病を治す本」(安保徹、水嶋丈雄、池田国義著・マキノ出版)が出版されて以来、多くのパーキンソン病およびパーキンソニズム患者が鍼灸治療を受けるようになった。

パーキンソン病を完治させる薬物療法や外科療法が確立されていない現在、安全性が高く、副作用の少ない鍼灸医学に大きな期待が寄せられていると言えよう。

本稿では、パーキンソン病とパーキンソニズムに対する鍼灸治療の方法について紹介し、鍼灸医学の本疾患群に対する可能性について考察した。

I鍼灸治療の対象となる症状についてパーキンソン病およびパーキンソニズムの3大症状は、振戦、筋固縮、動作緩慢とされている')。しかし、実際の診療現場では、患者は多彩な神経症状を有し、その症状の軽減を希望して来院される。その症状とは、自律神経障害としての便秘症や起立性低血圧(たちくらみ)や筋固縮に伴う発声障害、身体が傾く姿勢反射障害などである。

表1は、2003年1月から現在まで、明治鍼灸大学附属鍼灸センターおよび附属京都駅前鍼灸センターに来院した22例のパーキンソン病とパーキンソニズム患者の訴える愁訴の種類と例数について集計したものである。いずれの症例も、既に一般的な薬物療法を受けた上で鍼灸治療を開始しており、また、患者が鍼灸治療による改善を希望した症状の統計であるため、患者の有するすべての症状について検討できたわけではないが、表1に挙げた症状は実|際の鍼灸臨床において治療対象となる症状である。

表1. 22症例に認められた愁訴
 症状          例数
 歩行困難        12
 四肢のこわばり感   12
 振戦           7
 痛み           7
 発声困難        3
 動作緩慢        3
 書字障害        2
 便秘           2
 全身倦怠感      1
 抑うつ感        1

その結果、当然ながら、すり足歩行や歩行開始困難(startinghesitation)に代表される「歩行困難」、あるいは「四肢のこわばり感」、「振戦」などが、上位に認められる。注目されることは、「痛み」を症状とする症例が7例と、全体の3分の1の症例で認められることである。

しかし、パーキンソン病やパーキンソニズムにおいては疼痛は一般的な症状として捉えられていないのではないかと思われる。腰痛を訴える患者の中には、変形性腰椎症や肩関節周囲炎の併発がうかがわれる患者もあるが、パーキンソン病やパーキンソニズムに特徴的な筋固縮が変形性腰椎症や肩関節周囲炎による「痛み」を更に増強させているとも考えられる。

そして、こうした筋固縮に起因すると思われる疼痛症状は、患者の苦痛も大きく、QOLを著しく低下させている。一方、鍼灸治療が様々な疼痛疾患に対して鎮痛効果をもたらすことは、周知の事実である。

実際に筆者らのパーキンソン病とパーキンソニズムに対する鍼灸臨床においても、著しい
疼痛軽減を認めることが経験されており、疼痛は本疾患群に対する鍼灸治療の適応症状として提示できるのではないかと考えている。

その他にも、「全身倦怠感」や「抑うつ感」を訴える患者もみられた。各々の症状に対する
鍼灸治療の効果については、現在もなお治療中であるため、改めて報告すべきであると考えているが、今回の考察によって多彩な症状に苦しむ患者像が明らかになるとともに、鍼灸治療の果たすべき領域の広さがうかがわれた。

パーキンソン病とパーキンソニズム に対する鍼灸治療

1)中医学的な鍼灸治療方法
パーキンソン病とパーキンソニズムに特徴的な症状を直接説明した中医学的な記載は見当たらない。そこで筆者らは、パーキンソン病やパーキンソニズムにみられる症状のうち、最も代表的な症状の1つである振戦について中医学的に弁証し、これを本疾患群に対する中医学的な鍼灸治療の方法としている。

四肢の振戦は「手頭」と「足頭」に分けられる2)。「手顛」とは手の振戦のことであり、「肝
風」「風疾」「風寒」「脾虚風動」「血虚風動」「陰虚風動」に弁証分類される。また「足頭」とは足の振戦のことであり、「血虚風動」「風寒湿」に分類される。

パーキンソン病とパーキンソニズムにみられる振戦は、四肢ばかりでなく、頚部や下顎にも認められる。したがって「手頭」と「足頭」のみによって本疾患群の振戦すべてを分類することには不足な点もあるが、筆者らは「手頭」と「足頭」の弁証分類のうち、外邪の侵襲によるものを除いて、中枢神経系変性疾患に相当するものを弁証分類として応用している。

①肝風内動

精神的な興奮によって肝陽が亢盛し、内風が生じて筋が動くことにより振戦を呈するものである。肝火旺の体質(激情型、筋肉質、赤ら顔)者に多くみられる。振戦は急激に発症し、強い振戦を呈する。随伴症状として、頭のふらつき感、頭痛を示す。舌は紅または暗紅で、脈状は有力である。治則は平肝息風で、合谷、行間、風池、肝命を用いて潟法の刺激を行う。なお、本証は高血圧脳症としてみられるものであり、症状発症の急性期には西洋医学的な救急措置を必要とする。

②脾虚風動

脾虚に乗じて、相対的に肝風が内勤して振戦を生ずるものである。振戦は緩慢で間欠的である。随伴症状として、握力の減弱、疲労倦怠感、食欲不振、軟便などの脾虚症状がみられる。舌は胖大、淡泊、脈状は沈緩で無力である。治則は健脾定風で、中院、三陰交、脾命を用いて補法を行う。

③血虚風動

慢性病あるいは慢性失血性疾患によって心肝血虚となり、筋肉を栄養できずに振戦が発症するものである。振戦は軽度であるが、しびれ感、動悸、肌につやがない、皮膚掻痒などの血虚症状を併発する。舌は淡泊、脈は細で無力である。治則は養血總風で、血海、三陰交、胴愈を用いて治療する。

④陰虚風動
高齢化や慢性の熱病によって陰液を失い、肝腎陰虚をきたし、陰虚陽冗に伴って内風邪が生じて振戦を呈するものである。振戦は緩慢であり、口やのどの渇き、皮膚乾燥、るい痩などの陰虚症状を呈する。舌は暗紅または紅緯、脈は細である。治則は滋陰總風で、関元、復溜、照海、太鐇、腎愈を用いて治療を行う。

実際の臨床上は、パーキンソン病やパーキンソニズムでは陰虚風動、肝腎陰虚を呈する症例が多く、矢野ら3)も、総合的に弁証するとパーキンソン病は肝腎陰虚証が多くみられると報告している。

2)頭皮鍼療法

頭皮鍼療法は、中枢神経系の疾患に伴う運動障害や言語障害、感覚障害など幅広く用いられている。杉(中国)はパーキンソン病における振戦抑制のための舞踏振戦抑制区を用いた頭皮鍼療法を紹介し、山下らは、パーキンソン病患者を対象に同区への通電療法を行い、臨床的な効果を報告した。

頭皮鍼療法の基礎医学研究に関しては、赤川らがパーキンソン病モデルマウスを用いて頭皮への刺鍼の影響について報告している。西洋医学においても、樋口らは頭部への低電圧パルス療法がパーキンソニズム患者の、特に筋固縮の軽減に有効であったことを報告している。

筆者らも、数少ない症例ながら頭皮への刺激(主に横刺術)がパーキンソン病とパーキンソ
ニズム患者の症状を軽減させることを経験している。筆者らが主に用いる頭皮鍼の刺鍼領域は、運動区あるいは舞踏振戦抑制区である。

3)振戦に対する低周波置鍼療法
振戦を強く訴える患者に対しては、特に陽明系に対する低周波置鍼療法を行う。上肢であれば、曲池一合谷、下肢であれば、足三里一三陰交(あるいは下巨虚)を用い、2~5肱で筋収縮がみられるように通電する。振戦に合わせるように、あるいは振戦が通電によって打ち消されるように通電できれば、振戦を抑制できる効果が高いように思われる。

振戦の軽減を目的とした低周波置鍼療法については、山下らによっても報告されておりそ
の効果が認められている。また、矢野らは四肢への鍼通電刺激が中枢神経系に与える影響を脳波トポグラフィーを用いて明らかにした。

通電療法には、局所的に筋の緊張を緩和したり、瘻痛を抑制したりするなど幅広い生体(病態)への影響がうかがわれる。したがって、通電刺激が中枢神経系へ影響し、振戦を抑制する機序を持つ可能性が予測される。

4)自律神経症状等その他の症状に対する鍼灸治療
便秘、起立性低血圧、排尿障害などの自律神経症状は多くの患者にみられ、かつ患者のQOL低下の主要因であると感じられる。筆者らは、パーキンソン病やパーキンソニズムに関連した疾患としてShyEDrager症候群の1例に対する鍼灸治療を経験している。

ShyDrager症候群は振戦や筋固縮、動作緩慢といった症状を呈しながら、自律神経症状として著しい起立性低血圧を主症状とする疾患である。筆者らはShyDrager症候群に対して、命刺を中心とした鍼治療を行い、座位姿勢でも失神発作をきたすほどの起立性低血圧が、院内独歩可能となるなどの改善を得た。また角谷らは、パーキンソン病を基礎疾患とした尿失禁患者に対して中膠を用いた鍼治療を行い、膀胱機能の改善を得ている。

鍼灸刺激が自律神経を介して様々な治療効果を発現することや、自律神経機能を回復させることは知られており、パーキンソン病やパーキンソニズムにおける自律神経症状の改善は患者のQOL改善のために極めて有益である。

パーキンソン病とパーキンソニズムに対する鍼灸治療効果
1)対象

明治鍼灸大学附属病院を受診し、パーキンソン病またはパーキンソニズムと診断され、鍼灸治療を行った12症例。平均年齢は58.1歳、発症から鍼灸治療開始までの平均罹病期間は72カ月間であった。鍼灸治療の対象となった症状は、振戦10例、歩行困難8例、動作緩慢2例であった。また、薬物療法の副作用症状の1つである

口部の不随意運動であるOraldyskinesiaが3例に認められた。なお、2例は30歳以下で発症した若年性パーキンソン病であった。

2)治療方法
薬物療法は、11例で鍼灸治療開始以前までの内容が継続して行われた。1例については、当院に来院して診断を受け、投薬を開始した。

鍼灸治療はまず脳血管障害患者に用いる基本的な鍼治療(脳血管障害配穴)を行った。これは筆者ら明治鍼灸大学内科鍼灸グループにおいて、脳梗塞などの中枢神経系疾患に対して基本的に用いている治療穴である曲池、外関、合谷、環跳、足三里を用いる置鍼術(10分間)である。

また、振戦を強く訴える患者に対しては、前項に示すような低周波置鍼療法を行った。さらに患者によっては、弁証による鍼灸治療(随証療法)を行った。その結果、治療方法は3例で脳血管障害配穴を行い、3例で低周波置鍼療法、6例で随証療法を行った。

表2に患者のプロフィールと治療方法を示す。
3)治療結果
①治療直後の変化(図1)
全12例のうち、最も多くの症例でみられた振戦の10例については、6例で症状の軽減を認めた。また、全身のこわばり感や発声困難に対しても治療直後に一時的ながら症状の軽減を認めた。しかし、歩行困難や動作緩慢、Oraldysldnesiaには直後効果は認められなかった。

全体として12人の患者がもつ26症状のうち10症状で直後効果が認められた。このことは、薬物の影響なしに鍼灸刺激が臨床的な効果をもたらしたものと考えられる。

②治療終了時の変化(図2)
長期的な薬物療法と鍼灸治療の併用効果を治療終了時に評価した。その結果、12例中9例で臨床的な効果が認められた。症状の種類としては、歩行困難の改善が4例に、振戦の軽減が2例に、動作緩慢の改善が2例に認められた。また薬物療法の副作用であるOraldyskinesiaの軽減が1例に認められた。さらに、3例については日常生活を維持するための薬物投与量の減量が可能となった。

鍼灸治療のパーキンソン病とパーキンソニズムに対する位置付けを以下のように考察した。

①鍼灸治療によって振戦や筋固縮といった本疾患群に特徴的な症状や、瘤痛など本疾患群に随伴する症状を軽減することができる。

②症状の軽減が一時的あるいは短期間であっても、進行性の疾患であるパーキンソン病とパーキンソニズムにおいて、薬物投与量を維持したり、時には減量できたりする。

③便秘や起立性低血圧(めまい、立ちくらみ)、排尿障害といった自律神経症状の軽減によって、患者のQOLを向上させることができる。

本疾患群に対する西洋医学的治療法はL-ドーパ療法を中心に、神経保護療法や外科的療法など、治療法に対する研究は今日も開発が進んでいる。しかし、現実にはなお、慢性的な症状に悩む患者は多く、高齢者人口の増大に伴って、今後ともパーキンソン病やパーキンソニズム患者は増大すると考えられる。L-ドーパ療法などの薬物療法が常に副作用と隣り合わせであることと、本疾患群が慢性、進行性の疾患であることを鑑みれば、患者にとっては、より安全で継続可能な治療方法が望まれる

。こうした点からも、本疾患群に対する鍼灸治療の効果を明らかにすることは、極めて重要な課題であると考えられる。多くの鍼灸師(治療機関)の臨床効果を集結し、基礎研究を種み重ねて、高いEBMに則った鍼灸治療の実践を実現すべき時期にきているとも言えよう

パーキンソン病の理学療法

歩行機能改善に注目して・・
パーキンソン病は、大脳基底核疾患の代表的なものである。大脳基底核が障害されると、随意運動(以下、運動)の開始と持続が困難になる。そのためパーキンソン病の理学療法では、運動をどのように始めさせるか、また、どのように運動を持続させるかが重要になる。

パーキンソン病の理学療法の中でも運動療法に注目して述べることとする。まず、パーキンソン病の運動療法を行う際に必要な知識として、「大脳基底核機能と随意運動」について述べる。次に、「パーキンソン病の運動療法の基本的概念」、そして、「パーキンソン病の運動療法の具体的方法」について解説する。

I大脳基底核機能と随意運動”大脳基底核とは淡蒼球、尾状核、被殻、黒質、視床下核の総称である。運動にかかわる大脳基底核の働きは、「この動作をしよう」といった運動の動機づけや意志、すなわち内部刺激に反応して運動を計画することに作用する。そして、運動が合理的に行われるような姿勢保持(運動準備状態、いわゆるモーター・セット)に働く
ことで運動の開始を促す。また、運動学習後はその運動を特に意識せず実行することに作用している。

パーキンソン病では、患者は立位・歩行をはじめとした種々の動作において、下肢の動きに伴う体幹の動きが円滑でないために、動作とともにバランスを崩すという反応が生じる。これは大脳基底核が運動準備状態に正しく作用していないことの表れである。
このためパーキンソン病患者の動作は運動発現が困難であることが特徴となる。しかし、パーキンソン病患者は、運動発現を促すために音やリズムのような外部刺激を用いると運動が円滑になるという特徴ももっている。具体的には、階段や横断歩道のようにリズム感のある視覚刺激や、メトロノームや号令によるリズム感のある聴覚刺激により、すくみ足が改善されるという現象である。

この現象は、外部刺激による運動に関与しているのが小脳であるために、パーキンソン病の
ように内部刺激に反応して運動を発現させる大脳基底核が障害されている場合、患者が小脳の機能によって運動を実行していることから起こると考えられている。これによりパーキンソン病では、音などの外部刺激をきっかけとして用いることで運動改善の可能性があることがわかる。ただし外部刺激を用いて動作ができるからといって、疾患そのものが改善したわけではないことを認識しておく必要がある。

大脳基底核は、学習された運動企画の自動実行に関与している。ところが、パーキンソン病慰者は、外部刺激を用いた治療を行って歩行が可能になったとしても、運動の自動実行はできず歩行を継続することは困難である。そのため円滑に足を運ぶことが困難になり、いわゆる突進現象がみられることとなる。

パーキンソン病の運動療法、基本概念
次に、これらの大脳基底核の作用を理解したうえで必要な運動療法について述べる。
大脳基底核障害であるパーキンソン病の運動療法の大きな課題は、「どのように運動を始めて、その運動をどのように持続させるか」である。事実、運動療法を実施する私たちは、「なぜ、うまく運動を行うことができないのか」、「なぜ、その運動を持続することができないのか」がわからないと、質の高い運動療法を提供することができない。そこで治療者は患者の動作が困雌な理由を、動作分析から見つけ出さねばならない。
そのために必要な治療者の能力は、「動作を適切に観察できる能力」であり、解剖学・運動学の知識が重要となる。

では、実際に運動療法を行うために必要な評価過程2)と運動療法の基本的概念について述べる。パーキンソン病の運動療法は、なんでもいいから運動させるというものではなく、患者の主訴を解決できるような訓練方法を選択することが大切である。

そのため最初に主訴を聴取する際は、「痛い」、「動きにくい」という漠然としたものでなく、どのような日常生活活動が障害されているかを把握することが大切である。次に、その障害されている原因を分析することが必要になる。そのためには、実|畷の日常生活活動を治疲者の肉眼で観察(動作観察)しなければならない。そして動作観察の結果から、問題となる機能障害(関節可動域制限、筋力低下、感覚障害など)を予測して、実際にそれを裏づける検査を行うことで問題点を明らかにする(これを「動作分析」という)。この評価過程はトップダウンの評価過程と言われ、「患者に本当に必要な評価のみを行うために、短時間で評価できる」という長所がある。

しかし、動作観察をしても、その動作の問題点がわからない場合には、治療すべき問題点を見つけることができないので、適切な動作分析を行うためには、治療者は“センス”を向上させ、まず患者の動作を正常動作と瞬時に比較できるようになる必要があるだろう。

問題点が把握できれば、それを解決するように運動療法を行う。例えば、歩行ができない原因が下肢の関節可動域制限である場合には、関節可動域訓練を行うが、それだけで終わるのではなく、関節可動域の改善に伴って歩行能力が向上するかどうかを確認する。すなわち、機能障害レベルの問題点を治療することで、問題となった日常生活活動がどのように変化したかを明確にするのである。実際の運動療法では、盤得したい日常生活活動(例えば、「歩行」)に近い治療場面(例えば、「立位」、「ステップ動作」)で関節可動域や筋力を改善できて、その結果として歩行能力の向上につながることが理想である。

パーキンソン病の運動療法の具体的方法
パーキンソン病の運動療法を行う際には、前述のように、問題となる動作を適切に動作分析できることが大切である。

ここでは典型的なパーキンソン病の症例として、歩行は可能であるが、第1歩目をうまく出
すことができずに、歩いていると前方に突進してしまう患者(TT、女性、68歳)に行った歩行動作の改善を目的とした運動療法を紹介する。

本患者の立位姿勢の特徴は、筋強剛のために全体的に屈曲姿勢になっていることである。特に肩甲帯屈曲、胸椎後弩の影響で体幹屈曲が強く、下肢では股関節と膝関節に屈曲を認めるため、全体的に屈曲位での保持となっている。

また足関節は軽度底屈位である。このような姿勢では、立位において足圧中心は健常者と比較して後方に変位している。なぜなら足圧中心が健常者と同様であれば(足圧中心が現在の位置よりも前方に移動すれば)、全体的に屈曲位である体幹は前方に傾斜して不安
定になるので、患者はこれを避けるために、足圧中心を健常者よりも後方に変位させて姿勢を保持しているのである(図1)。

本患者は筋強剛により体幹の動きが不十分であるために、立位姿勢から歩行に移行する際、体幹が屈曲位のまま軽度に側方へ体重移動をする。またそれと同時に、股関節と膝関節をさらに屈曲させることにより歩行を開始している。

しかし、歩行中では後方に変位していた足底圧が前方に移動するために、体幹が徐々に前方に傾斜してしまい、歩行の不安定性を増加させているのである。
このような症例に対する運動療法は、まず立位姿勢を改善させることから始め、その上で可能であれば立位場面で運動療法を展開する。

具体的には、足圧中心を前方に移動させながら体幹と下肢の伸展を促す。この際、足圧中心を後方に残したまま体幹と下肢を伸展させると、後方に転倒してしまうので、足圧中心を前方に移動させることが重要となる。

また、治療者は一方の手を患者の胸骨部に、他方を脊柱中央部にあてがって、てこの原理を使って体幹を伸展させるのと同時に前方へ重心を移動させるが、「できるだけ手を軽く保持してハンドリング(治療者の操作のこと)しなければならない」。

と言うのも、治療者が手の圧を強くすればするほど、患者は治療者の手に頼ってしまい、体幹屈曲姿勢がさらに強くなるからである。これには注意を要する。

次にこの姿勢から、左右に重心を移動させる。左右への重心移動は、歩行を円滑にするために必要であり、また正しい歩行の立脚期を独得させるためには、体重を支持している下肢の動きが重要となる。

このとき、左右への重心移動はリズミカルに行うのではなく、足部の中央部分に体重が負荷されているのを確認しながら患者の身体全体を側方へ導き、重心移動を指導する(側方移動)。治療者によっては、患者の体幹を側方に傾斜させながら側方移動を行っている場面もみられるが、この方法では治療になるどころか、かえって歩行中に体幹が崩れることを学習させてしまう。

また正しい動作を獲得するための運動療法として、左右への側方移動を行うと同時に体幹回旋も誘導する。これも歩行動作を想定して、側方移動と同じように体幹を十分に伸展した状態で対側への体幹回旋を行うことが大切である。このとき、患者に意識させて体幹回旋運動を促すと、肩甲帯周囲筋や上肢筋の筋強剛のために両上肢だけで頑張ってしまうことがある。この上肢の頑張りは、上肢全体の筋緊張を冗進させるだけでなく、体幹筋、特に大胸筋や腹筋群などの屈筋群の筋緊張も冗進させてしまうため、注意が必要である。

次に、ここまでの運動療法で獲得した動きを歩行動作の中で再現できるようにするための前段階として、ステップ動作を取り入れる。ステップ動作は足を前後に開き、前に位置した足に体重をかけながら他側下肢を前方に出させる。

このとき、今まで述べた動作での注意点が解決できているかを検討する。そして、最後に歩行を行わせ、治療前と比較して歩容が改善したことを確認できれば歩行に対する運動療法を終了する。

本症例では、運動療法後における閉眼立位の前後方向の動揺平均中心変位は25.7mm前方(+25.7mm)であり、治療前と比較して明らかに前方へ変位し、健常者に近い結果になっていた。この結果、歩行においても治療前にみられた体幹前傾姿勢は改善し、安定して行えるようになっている。

パーキンソン病の運動療法では、まず患者の困っている日常生活活動を把握する。そして当該動作の動作分析を行い、得られた問題点を正常(健常者の動作)に修正するようにアプローチする。このような運動療法を行うためには、治療者として解剖学や運動学を基礎とする動作分析能力を高めることが必要となる。この評価過程と運動療法は、職種に関係なく行うことができ、かつ特別な機器を必要としないので、鍼灸院でも十分に行うことができるものである。

2016年10月 4日 (火)

パーキンソン病について

<医師と鍼灸師の座談会より>

パーキンソン病は数ある神経変性疾慰の中では、アルツハイマー病に次いで2番目に頻度が高く、10万人に50人から150人が罹患していると言われています。

パーキンソン病の'1つの特徴として、加齢によって発症頻度が高くなることが挙げられます。そのため65歳以上の場合では、パーキンソン病の有病率は500人に1人になると言われています。加齢によって増え、かつ慢性に経過する神経疾患であることから、今後鍼灸業界が力を入れて取り組んでいくべき非常に大事な疾患だと思います。

パーキンソン病は筋強剛(筋固縮)が非常に強いので、最初は筋強剛に伴う肩こりや腰痛を鍼灸で治療するのが一番良いと思っていました。しかし、安保先生が「いや、それだけではない。パーキンソン病には自律神経が関係しているんだ」という説を出されたのをきっかけに、改めて考えてみると、確かにパーキンソン病では自律神経が症状に影響を与えているケースがかなり多いのですね。それで、「じゃあ治療してみようかな」と実際に治療してみたら、ドーパミンの値にも変化を与えることがわかってきました。

鍼灸治療によって寛解するとは言えませんが、 症状を緩和したり、パーキンソン病の治療で不可欠になっているL-ドーパ製剤(以下、L-ドーパ)を減量できる人もいるのでパー キンソン病に対する鍼灸治療は、これから非常に期待できるのではないかと思っています。

パーキンソン病の発症のメカニズムを簡単に概説しますと、パーキンソン病は中脳にある黒質のドーパミン作動性ニューロンが変性脱落、つまり死んでしまうことで線条体のドーパミン濃度が低下することによって起こります。

原因についてはまだはっきりとはわかっていませんが、遺伝や環境因子など色々な要因がお互いに関連しながら発症に関与していると考えられています。
遺伝については、現在はっきりと発症に関与していると特定されている遺伝子が2つ見つかっています。

その他の要因では生活習慣、例えばたばこを吸わない、お酒を飲まない、そういったことも関与しているとする文献もあります。それから患者には几帳面、非社交的、まじめ、無口といった性格が多くみられるという報告もあります。

次にパーキンソン病の臨床症状ですが、パーキンソン病には、安静時振戦、筋強剛(筋固縮)、無動(動作緩慢)、姿勢反射障害の4大症状があります。

安静時振戦とは、手を膝の上に置いているときなどに出てくるような振戦を言います。ピルローリングといって丸薬を丸めるような運動が特徴的です。

2番目が筋強剛です。これは患者から自発的に訴える症状ではないので、治療者や診察者が診ないとわかりません(注:筋強剛の診かたについては後述、パーキンソン病の診断において極めて重要な他覚的所見)。

3番目は無動(動作緩慢)です。動作が非常に遅くなるため、患者からの主訴の1つになる症状です。実は主訴や初発症状で一番何が多いかと言うと、やはり振戦が多いのですが、その次には、歩行障害や動作緩慢といった無動に関する症状が多いことがわかっています。

4番目は姿勢反射障害ですが、これは非常に転倒しやすい、歩くときに「とつとつとっ」と小刻みになりやすい、そういうような歩行障害や姿勢の異常のことを言います。
1996年に厚生省(当時)の特定疾患調査研究班がパーキンソン病の診断基準を出してますが、ふるえや動作が遅いという自覚症状に加えて、神経所見としてこの4大症状のうち1つ以上があれば、パーキンソン病の診断に近づくと言われています。

完全に診断するには、画像所見を参考にしたり、薬剤の使用を確認した上で他の疾患除外する必要があり、またL-ドーパなどの抗パーキンソン病薬による治療で明らかな症状の改善がみられるという基準もあるので、最終的な診断は医療機関でないと難しいのが現状です。

西洋医学で行われている治療を簡単に説明します。

ドーパミンの前駆体であるL-ドーパが導入されたのが1967年です。それ以前には抗コリン薬であるトリへキシフェニジル(商品名アーテン)が使われていました。L-ドーパが非常に画期的だったのは、非常によく効いたことです。ところが、L-ドーパが導入されてから20数年経った頃から、L-ドーパを長期間使っていると、体が勝手に動いたり、幻覚が出現したり、あるいは突然L-ドーパの効果が切れたり、そういう副作用が確認されてきました。

そこで、ドーパミンアゴニスI、(ドーパミン作動薬:ドーパミン受容体を刺激する薬剤)1974年に導入され、現在ではL-ドーパを少量に抑えながらドーパミンアゴニストを併用していく、あるいは若い患者であれば最初からドーパミンアゴニストを使う治療法が主流になっています。

さらに最近では、線条体のドーパミン濃度を高める意味で、ドーパミンの分解を阻害するようなMAO阻害薬やCOMT阻害薬なども出てきている状況です。

しかし、どれもパーキンソン病を根治させるものではありませんので、治療の基本は今でもL-トーハであることに変わりはないと言えます。

明治鍼灸大学では中医学的な鍼灸治療が中心になります。八網弁証ももちろん行いますが、私たちは臓肺弁証で肝・心・脾・肺・腎、あるいは気血弁証で気・血・津液に分けて鍼灸治療しています。パーキンソン病の場合は、五臓であれば圧倒的に肝の病証であることが多いので、肝腎、あるいは肝脾の証ととらえて治療します。一方、気血弁証であれば、肝とかかわりの強い血虚の病証、あるいは癖血の病証、それから腎陰虚証として治療します。
その一方で、例えば背中のこりや脚のこわばりなどに対しては、十分な触診の上、筋肉の緊張部位に局所的な鍼灸治療も施しています。

他に特徴的な治療法としては、振戦が強い患者には鍼通電療法も用います。例えば手の振戦には曲池と合谷に刺鍼して、3.5Hz~5Hz程度で筋収縮を認めるような鍼通電療法を15分間ぐらい続けます。

また頭皮鍼療法(以下、頭皮鍼)を併用すると、患者の状態も良くなるように思います。
ですから、最初はあまりたくさん触らずにこわばっている箇所に少し刺鍼する程度で済ませ、患者がだんだん治療に慣れるに従って、全身的な治療を多く加えるほうがいいのか、通電刺激を行うほうがいいのか、方法を患者に合わせて治療しています。

基本的にパーキンソン病は交感神経優位ですから、私のクリニックでは副交感神経を優位にさせる鍼灸治療が中心になります。安保先生が自律神経免疫療法を推奨されているので、私はそれに従っていますが、治療法は経絡治療や北辰会方式、良導絡治療であっても何でも良いと思います。ただ副交感神経を優位にさせることが一番の原則だと思っています。

具体的には患者の全身をひと通り診た後、脈状診で風がどこから吹いているのかを判断することが重要になります。つまり肝風なのか、血風なのか、それとも湿熱の風なのかをしっかり診断すれば、太衝、太繍、足三里、風門、大杼、内関、曲池など、どの経穴を使うかは決まってくるので、それらを使って副交感ネII経優位にします。

副交感神経が優位に変化したかは脈を診ればわかるので、変わったと思ったら今度は頭皮鍼をします。頭皮鍼はまだ学問的に解明されていませんが、振戦などには中国では頭皮鍼が一番良いと言われています。頭皮鍼にはいろいろな方法がありますが、私は胸鎖乳突筋の緊張を見ながら、耳の上の辺り、中国で言う振戦区に刺鍼し、手や足の振戦のサイクルに合わせながら、少し捻転刺激を与えています。

よく「パーキンソン病にはどこの経穴が良いですか」と聞かれますが、鍼灸治療は要するに個々の患者に合った、個々で違う医療です。つまり、個々の患者の風のあり方、患者の交感神経・副交感神経のあり方で取穴などは変わってくるので、副交感神経を優位にさせるような治療で、頭皮鍼さえ加えていただければ、私の方法でなくても良いと鍼灸師の先生方にはいつも強調しています。

採血できれば穎粒球の数、リンパ球の数がわかるので一番簡単です。ですが、鍼灸院では採血できないので、全身を診たり、脈状診で確認すれば良いと思います。
交感神経が優位になっていると、例えば肝が弦脈になったり、非常に血管が細く細脈になっていたりするので判断できます。

鍼灸治療部では、赤羽氏法、良導絡治療、北辰会方式、中医学、トリガーポイントなど、鍼灸師によって様々な方法が行われています。

一方、神経内科の外来で行う鍼灸治療では、リハビリテーションの動作分析を用いた評価とその結果に基づいた循経取穴を中心とした東洋医学的治療や中医学の概念による治療を行っています。
例えば筋強剛については筋強剛のある筋肉に直接刺鍼せず、循経取穴の概念による遠隔治療をしています。

また数例の経験しかありませんが、頭皮鍼をすると、患者から「温かい感じがする」という訴えがあります。ジストニア患者でも同様に改善することがあるので、頭皮鍼も重要な治療手段として用いています。

パーキンソン病患者は体幹が屈曲姿勢なので、よく腰痛を訴えます。この場合、屈曲姿勢が改善しないと腰痛も改善しません。そこで腹部を触診して、皮膚や筋肉が長期間の体幹屈曲姿勢によって短縮している部位に、集毛鍼を使って刺激を加えます。私がストレッチを施すのと、実際に鍼灸師が皮膚を伸ばしながら集毛鍼を患者に施した場合、どちらが早く屈曲姿勢を改善できるか比較しても、集毛鍼で刺激をしたほうが体幹は伸びます。その結果、腰痛も軽減するという経験があるので、パーキンソン病の二次的な症状に集毛鍼は使えると考えています。
屈曲姿勢になっていると、脊柱起立筋が過緊張を引き起こします。そういう場合、循経取穴の概念により昆命に刺激をしても一過性に腰痛も改善しますが、やはり姿勢異常があれば、腰痛は再発します。ですから、腰痛治療には姿勢改善が重要です。

非常に虚証が強くなった場合は、刺鍼が駄目な人がいるので、そういう場合には、集毛鍼なども1つの方法だと思いますね。

私は1週間に1回を基本にしています。患者が2回来たいと言えば、2回、3回と治療することもありますが、個人的には週に2回の治療が良いと思っています。鍼灸師のマンワー不足があって、我々の鍼灸治療は週1回を基本としています。なぜ2回が良いという印象を持っているかと言うと、「治療後3日ぐらいまでしか効かない」という訴えが患者から多いからです。だいたい3日ぐらいで元に戻ってしまうケースがあるので、私のクリニックでも週1,2回の治療をしています。

振戦や無動に対して鍼灸治療をすると軽減したという話はよくあるのですが、私は結局、どんな治療にしるそれが有効かどうかは、患者の病気の経過に影響するものでないとあまり意味がないと思っています。
例えばL-ドーパだと、長くなると副作用も出ますが、確実にその人の経過を変えていきます。確かに1日、2日良くなるのも大事なのですが、鍼灸治療は患者の病気の経過を変える効果や作用が本当にあるのでしょうか。

長期効果で言うと、L-ドーパの量は同じなのですが、鍼灸治療によって“オン・オフ現象(薬を服用中にもかかわらず、急に動けなくなったり、動けるようになったりする現象)”が改善されてきたケースもあります。中にはL-ドーパを減量できたり、完全に廃薬した方もいます。

ただ私の患者で長い人でも最長2年ぐらいしか経過をみていませんので、果たしてずっと良い状態が続くかどうかはわかりません。今のところは長期間鍼灸治療を続けて、経過の良い患者がたくさんいる状態です。

しかし、L-ドーパを減量できても、それが鍼灸治療に置き換わっただけとなると、患者にとってのつらさは同じだと思います。確かに鍼灸治療をやめても、L-ドーパを減量したままうまく経過しているケースもありますが、長期効果の判断は難しいところですね。

鍼灸に置き換えて、L-ドーパをやめられれば確かに一番良いと思うのですが、ただL-ドーパを急激にやめると、全く動けなくなったり、悪性症候群という非常に重篤な病態が誘発される場合があるので、L-ドーパを減量するにしても非常に徐々に調節していかなければ難しいと思います。

鍼灸と西洋医学がスクラムを組んでいる場合でないと、L-ドーパを減らすのは難しいと思います。私は鍼灸治療が効果を表すためには治療を継続しなければいけないと考えているので、患者にも気長に鍼灸治療と付き合ってくださいと言います。

しかし、やはり1週間に1回、それを2年も3年も続けると患者も少し飽きてくるので、一度治療を休止してみるのも良いと思います。それで、また何か気になることが出てくれば、集中して1カ月間、2カ月間は毎週来てみる。そういった形で、私はなるべく患者に長く鍼灸治療と付き合ってもらって、L-ドーパだけより鍼灸治療を併用したほうが体には良いですよと言っています。

あと鍼灸院で長く治療しないほうが良いケースがあります。1つは薬のことも関係しますが、幻覚、精神症状が出てきた場合です。2つ目は痴呆が進行してきた場合、そして3つ目は先ほど触れたMSAですね。こうした場合は西洋医学に任せたほうが良いと思います。

MSAは初発症状ではパーキンソン病とほとんど区別できない場合もありますが、声帯が麻痺して(声帯外転麻痺)、気道閉塞により呼吸困難をきたし突然死に至ることがあるので、あまり長く抱えておかないほうが良いと思います。

<鍼灸院でもできる運動指導>
次はリハビリテーションについて、治療を含めてお話願えますか。
パーキンソン病の治療としてリハビリテーションは重要です。しかし、「今までリハビリをやってきました」と患者が言っても、実態は体育館で自己流の運動をしていたとか、主治医にパンフレットをもらって体操をしている程度で、実際はパーキンソン病患者で運動療法をきちんと受けているケースはそんなに多くないと思います。

パーキンソン病患者は全体的に屈曲姿勢で、重心は後方に変位しています。例えばパーキンソン病患者の立位では、重心が健常者よりも後方に変位しているために、正しく立位姿勢をとらせてあげないと、患者は後方に転倒してしまいます。

また、パーキンソン病患者は、運動の開始に関与することと、運動を自動実行させることの
2つの大きな役割を持つ大脳基底核が障害されているので、運動療法に関しても、「第1歩目をどう出させるか」、そして「実際動いたものをどのように円滑に維持させるか」が大切になります。

具体的にはまず脚にきちんと体重をかけながら身体を伸展させる運動を指導します。次に左右の体重移動、身体全体を左右へ移動させるような歩き方を指導します。普通我々が歩行するとき、重心の移動は中心部から両側方に5センチほど動くので、パーキンソン病患者の歩行も同様に左右へ移動をさせます。このときに大切なことは肩だけを動かすのではなく、全身で左右への体重移動を促してあげるのが、一番円滑に歩行を助ける運動療法になります。これは広いスペースは必要なく、鍼灸院で十分にできる運動療法なので、せひ実践していただきたいと思います。

余談ですが、ハ|、やニワトリは歩くときに首を振って動きますよね。それはなぜかと言うと、左右への体重移動ができないため、前後に駆動性を求めて、それによって歩いているからです。パーキンソン病患者も身体が硬いために、ハトと同じ状態なのです。ですから、リハビリテーションの現場でよく見られる、「何か物を持って。次に大きく脚をあげて、もっとあげて」というような訓練は、パーキンソン病患者に対しては禁忌になります。本にはあまり書いていませんが、このような脚ぶみの練習は、転倒を助長します。

それともう1点。パーキンソン病患者はよくメトロノームなどリズムに合わせると動きやすいと言われています。パーキンソン病患者は大脳基底核が障害されているために運動開始が困難になっており、音などの外部刺激に働く小脳を経由して運動をする特徴があるからなのです。

ですから、パーキンソン病に対する運動療法では、音刺激や視覚刺激、すなわちリズムに合わせて動かせることは1つの工夫ではあります。しかし、ただそれを長く使っていると、患者が歩きたいと思うときに歩けない病態をつくってしまいます。

私もパーキンソン病患者の歩行にはリズムをとらせると読んだことがあります。それはあまり良くないのですか。

常にリズムをとらせることは良くないと思います。でも、どうすれば良いかと聞かれると、私もその兼ね合いを研究している段階なので難しいですね。

リハビリ以外の日常生活の指導などで何か注意点はありますか。

パーキンソン病では便秘を解消するようによく言われますよね。植木彰先生(自治医科大学大宮医療センター教授)は水を飲ませろとおっしゃっています。あまり水ばかり飲ませてもいけないとは思いますが、患者に便秘をさせないことは大事な指導です。

西洋医学で対応が困難な症状が幾つかあります。その中に便秘や、夜間に頻尿になる蓄尿障害などがあります。こういう症状に対して、鍼灸が寄与できれば非常にすばらしいと思いますので、ぜひ検討していただきたいですね。

パーキンソン病に付随する様々な症状、L-ドーパだけで解決できないような症状、あるいは不定愁訴、自律神経症状、瘻痛などに対して、鍼灸は非常に有効です。今の神経内科の治療に加えて、鍼灸治療を積極的に取り入れると非常に良いと思います。

しかし、果たして鍼灸治療そのものが脳内のドーパミンにどれぐらい作用しているのか、あるいはタイプの異なるパーキンソン病に対してどのくらい鍼灸は治療効果があるのかを調査することは、これからの課題だと思います。

現在、パーキンソン病に対する鍼灸効果を検討する時期にきているので、全国の先生方もどんどん症例を報告していただきたいと思います。また、私のところから紹介でパーキンソン病の患者が来ても、治療や病態でよくわからなければ私に連絡していただいて結構ですので、嫌がらずに治療していただきたいと思います。

繰り返しになりますが、パーキンソン病について基本的なことを知っていなければ、患者の苦しみを分かっこともできないし、患者の信頼も得られません。また、鍼灸師が病気に対して深い理解がないと、患者は治療を続けてくれないのです。私は1人の治療者としてまだまだ勉強不足を感じると同時に、先生方の話を聞く機会を今後とも持ち続けたいと思います。

私もパーキンソン病に対して鍼灸治療はすごく有効性があると思っています。パーキンソン病ではありませんが、現在、関西鍼灸大学附属診療所にはジストニア患者が全国から紹介で来院しています。というのも、我々は鍼灸の学会だけではなく、他の医学会などでジストニア患者の鍼灸治療効果を毎年報告してきた経緯があるからなのです。医師の先生方は最初は全く興味を示してくれませんでしたが、最近では報告が終わってから質問が多くなってきました。同時に、大病院からの紹介も増え、医師の先生方も困っているという印象を持っています。

ですから、パーキンソン病についても他の医学会で、鍼灸治療の良い点悪い点を含めて報告することが、鍼灸院に患者が来ることにつながると思います。鍼灸がパーキンソン病に効果があることを知っていただく活動を今後行えれば良いと思っています。

パーキンソン病の患者は必ず薬を飲んでいるので、主治医と緊密に連絡を取ることも大切になる。パーキンソン病は治らない病気というイメージが強いですが、様々な文献等で明らかになっているように、罹患してもほとんど寿命は変わりません。

L-ドーパの寄与するところが大きいのですが、L-ドーパだけではなく、周辺の治療を含めて非常にうまくコントロールすると、パーキンソン病は天寿をまっとうできる疾患なのです。ですから、鍼灸師の先生方には患者に、全然怖い病気じゃないんだよということをぜひ説明していただきたいと思います。天寿をまっとうできるからこそ、QOL(qualityoflife)を高めることが大事だということですね。

<パーキンソン病の病態>
パーキンソン病は、中脳黒質のドーパミン含有神経細胞が変性・脱落する(神経細胞が死んでしまう)ことにより線条体のドーパミン濃度が低下し、4大運動症状(振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害)を中心とした特有の症状が出現する疾患である。

鑑別が必要な疾患としては、中脳黒質の神経細胞の脱落ではなく、他の要因で二次的にパーキンソン病と同様の症状(パーキンソニズム)をきたす疾患群(表1)が挙げられる。これらの疾患では、パーキンソン病に比べて西洋医学的治療効果、合併する症状、予後などが異なるため、鍼灸治療を行いながら追跡する場合は、それらを踏まえながら経過を追わねばならない。

西洋医学的治療では、ドーパミンの前駆物質であるL-ドーパ(レボドパ)製剤を投与し、脳内ドーパミンを補充する方法が中心である。このL-ドーパ療法は、原因療法ではなく補充療法であるため、原則的には一生服用し続けなければならない。近年、長期的なL-ドーパ治療により様々な問題が生じることが次第に判明してきたため、L-ドーパの使用を抑え、他の薬剤を併用する多剤併用療法が主流になってきている。

ヒト中脳黒質には約20万個のドーパミン含有神経細胞があるといわれているが、加齢とともに徐々に減少する。さらにその神経細胞減少に伴って、投射先である線条体のドーパミン濃度が低下する。この中脳黒質にあるドーパミン含有神経細胞数、あるいは線条体ドーパミン量が約20%以下にまで低下するとパーキンソン病が発症する。これらは生理的には20歳代から非常にゆっくりと低下し、正常老化では100歳から120歳で20%以下になるがl)、パーキンソン病では、過伝的素因、環境要因2)など多くの要因が重なって、30歳代、40歳代から比較的急速に低下し、50~60歳代で20%以下になるため、その年代で発症してしまう。

このようにパーキンソン病に至る病態としては、ドーパミン含有神経細胞の変性・脱落がその根本であることが判明しているが、神経細胞死がどのような原因・機序で起こってくるかはまだ完全にはわかっていない。これは他の神経変性疾患(神経細胞がゆっくりとではあるが、徐々に死滅していく疾患群)、例えばアルツハイマー病(大脳皮質や海馬の神経細胞脱落)、筋萎縮性側索硬化症(大脳皮質や脊髄の運動神経細胞の脱落)、脊髄小脳変性症(小脳神経細胞の脱落と出入力線維の変性)などでも同様で、神経細胞死に至る原因については精力的に研究がなされているが、完全には解明されていない。

共通して言えるのは、一部は遺伝子異常により発症し、その他は遺伝的素因に環境要因が加わって発症するという考え方である。パーキンソン病でも約10%が遺伝子異常であるといわれているが、残りの90%については、遺伝的素因と環境要因が重なった場合に発症する「多因子説」が想定されている)。

パーキンソン病発症の環境要因としては、生活習|貫(飲酒や喫煙、食生活、運動習慣など)や体格、性格(几帳面、真面目、趣味がない)あるいは環境物質(農薬、除草剤などへの暴露)、病原微生物(ウイルス)など様々な因子について検討がなされ、一部には発症と有意に関連するという報告もあるが、諸説あり明確に危険因子として断定されているものはまだない。

(表1 パーキンソン病と症候性パーキンソニズム)
1、パーキンソン病(本態性パーキンソニズム)
2、症候性パーキンソニズム
 a.薬剤性パーキンソニズム
 b.脳血管性パーキンソニズム
 c.神経変性疾怨によるパーキンソニズム
 ・線条体黒質変性症(SND)
 ・進行性核上性麻痺(PSP)
 ・大脳皮質基底核変性症(CBD)
 ・多系統萎縮症(MSA)
 ・びまん性レビー小体病(DIBD)
 ・アルツハイマー病

パーキンソン病の鑑別診断
パーキンソン病の診断においては、4大運動症状とその他の自律神経症状(起立性低血圧、便秘、排尿障害、脂顔など)を系統的に把握・理解することが重要であるが、実|際の臨床では以下のような手順で診断を進めると便利である。

すなわち視診と問診で大方の見当をつけ、そのあと直接患者に触って理学所見をとり確認するという手順である。パーキンソン病と鑑別しなければならない疾患を表1.に示すが、それらの鑑別は以下のように診断を進めていく過程で、パーキンソン病と合致しない所見があるかどうかで(以下に"パーキンソン病らしくない所見”として記載)判断する。鑑別すべき疾患で最も多く、しかも重要なのは脳血管性パーキンソニズムと薬剤性パーキンソニズムである。

1 ) 視診
視診では①顔貌、②姿勢、③歩行に着目する。
顔貌では仮面様、すなわち表情が乏しく顔面の動きが少ないかどうかをみる。
姿勢では、前傾前屈で、それに加えて肘、膝などの関節が屈曲し、足の横幅が狭ければ疑いが強くなる。
歩行では、パーキンソン歩行、すなわち小刻み歩行やすくみ足(歩行の開始時や転回時に下肢が前に出ない)などがないかを確認する。特に患者が診察室・治療室に入ってくる際に、これらに注意して観察するように心がける。

視診で特筆しておきたいのは、歩行を観察する場合、下肢の運びをみることももちろん重要であるが、同時に「腕の振り」を観察することである。パーキンソン病の場合は、初期には必ず症状に左右差があるため、どちらかの腕の振りが小さくなる。また、歩行時に上肢の振戦が一方のみにみられることも多い。

視診においてパーキンソン病らしくない所見としては、小刻み歩行であるにもかかわらず、身体が前傾前屈していない場合である。つまり、身体がむしろ伸展傾向で、膝関節も伸展している姿勢で足の横幅が比較的広い場合は、脳血管性パーキンソニズムを疑う。最終的な脳血管性パーキンソニズムの確認にはMRIなどの画像診断が必要である。

次に、初期のパーキンソン歩行が疑われるにもかかわらず、腕の振りに左右差が全くない場合もパーキンソン病らしくないため、薬剤性パーキンソニズムや変性疾患によるパーキンソニズムなどを念頭におく必要がある。薬剤性パーキンソニズムの最終的な診断は時に困難であるが、いずれにしても患者の服用している薬をチェックする習慣をつけておくこが望ましい。

2 ) 問診
問では、まず患者の訴えを受容し、時間をかけて聞くことから始めるのは、他の疾患と同様である。パーキンソン病患者の主訴の約半数は振戦である。振戦がある場合は、ほとんどの場合患者のほうから訴えるので、問診で聞き逃す心配はないが、問診で聞き逃してはならないのはその振戦がどのような場合に起こるかということである。

パーキンソン病の振戦は4~6Hzの比較的ゆっくりとした振戦で、安静時に起こる(安静時振戦)。典型的には、上肢を膝の上やテーブルの上においてしばらくすると出現する。一方、安静時には振戦は起こらず、むしろ何か動作をするとき(例えばコップを口に持っていったときや、カップに入ったコーヒーをスプーンで混ぜるとき)に起こるふるえ(動作時振戦)は、パーキンソン病らしくなく、他の疾患による振戦、すなわち本態性振戦や小脳性の振戦などを考慮する必要がある。

パーキンソン病の主訴で振戦の次に多いのが、歩行障害と動作緩慢(無動)である。歩行障害は先に述べた視診で確認できる。動作緩慢については視診も重要であるが、問診で詳しく聞いておくと診断の助けになる。動作緩慢を問診で拾い上げるには、以下のような内容について聞くとよい。

①寝返り、寝起きに以前より時間がかからないかどうか。特にベッドではなく、畳など床に布団を敷いて寝ている場合に、パーキンソン病では臥位から起立までに要する時間が長くかかることが多い。

②服の着替えをするのに以前より時間がかからないかどうか。

③ボタンをとめたり、靴のヒモを結んだりするのが以前より下手になっていないかどうか。

④歩行時の転回の際に以前に比べてスムーズにいかないことが多いかどうか。

これらについては、患者自身から訴えのないことが多いため、問診の段階で患者本人、場合によっては配偶者やその他の家族などに確認する必要がある。
姿勢反射障害については、最近転倒しやすくなってきていないかどうかを聞く(易転倒性)。
パーキンソン病では、歩行時などにバランスを失った際に、姿勢を立て直すことができずに転倒する。後方に転倒する場合が多いが、前方、側方に転倒しやすいこともある。

3)理学所見
理学所見で最も重要なのは、筋強剛である。4大運動症状のうち振戦、無動、姿勢反射障害は、主訴として患者から訴えがあったり、あるいは視診や問診でかなりの程度まで把握できるが、筋強剛は直接患者を診察しなければその有無がわからない。筋強剛がみられた場合は、パーキンソン病の診断に大きく近づく。

筋強剛は、「四肢を他動的に屈曲・伸展させたときに診察者がその手に感じる抵抗」と定義できる。典型的には、関節の曲げ伸ばしの際に「ガクガクガク(歯車現象:歯車を回すときのような感触)」という感触を診察者がその手に感じる。特に、手関節と肘関節の屈曲伸展、前腕の回内回外で出やすいため、左右交互に調べて歯車現象の有無を確認するとよい。視診、問診でパーキンソン病を疑い、診察すると歯車現象が|湯性で、しかも左右差があれば、パーキンソン病の診断がほぼできたといっても過言ではない。筋強剛を感じるが、それが弱い場合は、対側の上肢を挙上させたり、あるいは対側の手でタッピングなどの作業をさせてみると、検査を行っている側の筋強剛がより顕著になる(手首固化徴候)ので一度試してほしい。

筋強剛の有無を診察した際に、パーキンソン病らしくない場合としては、次の2つがある。
1つは、曲げ伸ばしの際、パーキンソン病では曲げるときも伸ばすときもどちらもその抵抗はほぼ同じであるが、曲げ伸ばしで抵抗が明らかに異なる場合である。この場合は、筋強剛ではなく、むしろ痙縮を疑う。すなわち四肢深部腱反射などを行い、錐体路障害の有無を確認しなければならない。

2つ目は、曲げ伸ばしで同じ抵抗を感じるが、それが「ガクガクガク」ではなく、一様な抵抗(鉛管現象:鉛管を曲げ伸ばしする|際に感じるであろう抵抗)を感じる場合である。鉛管様の筋強剛がみられる場合は、パーキンソン病の可能性もなくはないが、薬剤性や脳血管性のパーキンソニズムを念頭におく必要がある。

パーキンソン病の西洋医学的治療
西洋医学的治療については、そのエビデンスレベルも含め日本神経学会のホームページ「パ-キンソン病治療ガイドライン」に詳しく記載されている。

大まかに述べると、
①薬物治療
②リハビリテーション
③手術療法
④その他(電気けいれん療法、磁気刺激療法)
などがある。

現時点での中心的治療は薬物療法である。④のその他の療法については、今後さらなるエビデンスの集積が必要であると考えられている。薬物による治療では、L-ドーパをはじめとする薬物をうまく組み合わせて治療を行うことにより、パーキンソン病の進行を遅らせ、嚥下障害や肺炎などの合併症を予防し、寿命を全うすることができるようになってきている。パーキンソン病では表2のような薬物が主として使われるが、現在、薬物療法については以下のような基本的方針がある。

①L-ドーパの使用をなるべく少なくする。
②ドーパミン作動薬を中心とした多剤併用による治療を行う。

<パーキンソン病の主な治療薬 ()内は商品名>
1.L-ドーパ製剤
(マドパー、ECドパール、メネシット、ネオドパストン)

2.ドーパミン作動薬(受容体刺激薬)
ブロモクリプチン(パーロデル)、ペルゴリド(ペルマックス)、カベルゴリン(カバサール)、タリペキソール(ドミン)

3.ドーパミン放出作用薬 
アマンタジン(シンメトレル)

4.抗コリン薬
トリへキシフェニジル(アーテン)

5.ノルアドレナリン作動薬
ドロキシドパ(ドプス)

6.MAO阻害薬
セレギリン(エフピー)

7.COMTI刑宵薬
トルカポン、エンタカポン

L-ドーパは、使用開始当初は胃腸症状(吐き気や食欲不振)が出現するが、それを乗り越えることができた場合は、パーキンソン病の諸症状を抑えるのに十分な量が使われると、非常に有効である。ところが、数年以上の長期投与により、いろいろと日常生活を困難にする症状が出現することが次第にわかってきた。すなわち不随意運動(ジスキネジア)、幻覚、症状の日内変動などである。従って、現在では、L-ドーパをはじめ各薬物の量をなるべく控え、多剤を併用することにより必要な薬効を得る治療法が主流となってきている。

ジスキネジアは自分の意志と関係なく頭部や体幹、四肢が勝手にねじれるような運動が起こる病態である。幻覚は視覚性の幻覚のことが多く、人物や動物などが特に夜間に見えることが多い。しかし、患者自身が幻覚であることを承知していて、それに左右されない場合もある。

ジスキネジアや幻覚が出現すれば、L-ドーパの使用量を減ずるのが基本ではあるが、もし日常生活にあまり差し障りがなければ、そのままL-ドーパを減量せずに様子をみることもある。薬剤の使用量を減らせば、運動症状が悪くなるからである。

症状の日内変動とは、薬の効果が以前より早く切れたり(ウェアリング・オフ現象)、服薬時間に関係なく突然動けなくなったりする(オン・オフ現象)ことで、これらが出現すると日常生活が非常に困難となることが多い。こうした症状の日内変動を回避するには、やはりL-ドーパの使用量を減らして、上に挙げたように主にドーパミン作動薬を中心とした多剤併用による治療に変更していく必要がある。

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パーキンソン病の診断には、高度な機器は必ずしも必要ではない。上に述べたように視診、問診、筋強剛(歯車現象)の確認が最も重要であり、それらによりほぼ診断できるといっても過言ではない。まず診察してみるという習慣をつけていただきたい。また、これらの診察は、パーキンソン病の経過を把握する際にも非常に有用である。

鑑別診断では、薬剤性と脳血管性パーキンソニズムが重要であるが、特に患者の服用している薬を確認することが重要である。ぜひ手元に一冊薬の本を用意してほしい。パーキンソン病の治療には現時点では薬物は欠かせないため、鍼治療等を希望する患者であっても必ず薬物を服用していることが多い。現在の患者の症状がパーキンソン病によるものなのか、あるいは薬物の長期投与による作用によるものなのかをしっかり把握しながら治療を継続していただきたい。
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