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2016年10月 5日 (水)

パーキンソン病の鍼灸治療

パーキンソン病の鍼灸治療(水嶋クリニック事例)
パーキンソン病とは、中脳黒質のドーパミン作動性神経細胞の脱落とレビー小体の出現によって、①静止時振戦(安静時振戦)②筋固縮(筋強剛)③動作緩慢(無動)④姿勢反射障害の4大症状を呈することが特徴とされる疾患である。しかし、これ以外にも自律神経症状や精神症状を呈することも少なくない。また薬剤性や脳血管性、変性疾患によるパーキンソニズム(パーキンソン症候群)との遠いにも気をつけなければならない。

治療はL-ドーパ製剤(以下、L-ドーパ)が効果的であるが、顎から始まる振戦タイプや足の歩行障害から始まるタイプには、L-ドーパはなかなか効率的ではない。またL-ドーパは交感神経刺激剤であるため、交感神経系の症状が出現してしまうことがあり、有用な治療成績を上げられないケースもある。

パーキンソン病は、前述した4大症状で来院する場合はむしろ少なく、“足がもつれる”や"つまずきやすい”という主訴が多いために、初期の診断は専門医でも難しいことが多い。この場合、軽い静止時振戦があれば診断しやすいが、むしろ姿勢反射障害、つまり両手の回外・回内運動に左右差が出ることが多い。この場合はまずパーキンソン病を疑い、専門医に紹介することが肝要である。

初期の場合での治療は、L-ドーパやドーパミン作動薬が有用であることが多い。薬剤性パーキンソニズムの場合は、両側性の振戦よりも、むしろ動作緩慢や歩行障害が目立ち、振戦を認めても静止時よりも姿勢時振戦(上肢を挙上したときのように、筋肉がある程度の活動を持続している場合に起こる振戦)が多い。カルシウム拮抗剤や消化管運動機能改善薬を内服していないかを確認すると同時に、主治医に連絡してこれを体薬すると改善することが多々あるため、これは鍼灸治療の対象とはならない。

脳血管性パーキンソニズムの場合は、段階的な進行を示し、薬剤性パーキンソニズムと同じ症状の他、錐体路徴候の合併が多い。画像診断では大脳基底核領域のラクナ梗塞、前頭葉の梗塞、側脳室周囲の虚血性病変などを認める。この場合L-ドーパは無効で、アマンタジン(ドーパミン放出作用薬)が有効なことが多い。

変性疾患パ〒キンソニズムの場合は、自律神経症状の合併が多い。パーキンソン病に比べて予後が悪く、姿勢反射障害、四肢に比べ体幹での著しい筋固縮、そして頚部の後屈を特徴とする。またMRIのsagital像で中脳被蓋の萎縮を認める。これもL一ドーパは有用でなく、治療に難渋するところである。

<パーキンソン病の治療効果の測定>
パーキンソン病の鍼灸治療は効果があるのか。それを考察するため、パーキンソン病38例、脳血管性パーキンソニズム6例、変性疾患パーキンソニズム2例に鍼灸治療を施行したので報告する。効果を見るために、表1のような自覚症状と他覚症状の点数表(以下、SCORE表)を用いた。

次に血中ドーパミン濃度と脳脊髄液中ドーパミン濃度を比較して、脳脊髄液中ドーパミン濃度がパーキンソン病治療の評価項目として使用できるかどうかを考察した(表2)。

しかし、残念ながら、血中ドーパミン濃度と脳脊髄液中ドーパミン濃度に相関関係はでてこなかった。その原因は、セレギリン(MAO阻害薬)の作用機序から考えるに、体内活性酸素
の濃度が影響していることが大きいと思われる。

つまり、脳脊髄液中のドーパミン活性は活性酸素に影響を受けており、血中ドーパミン濃度が少なくても、活性酸素が少ないと脳脊髄液中の濃度は十分に保たれるものと考えられる。また、L-ドーパの投与にて血中ドーパミン濃度が上昇していても、活性酸素が多いと脳脊髄液中のドーパミン活性は低いままであることが推測されたので、今回、脳脊髄液ドーパミン濃度は鍼治療の効果を測定する項目から除外した。

自覚症状
 1.振戦 あり(顎・上肢・下肢) なし
 2.動作がのろく稚拙 あり なし
 3.歩行がのろく稚拙 あり なし
他覚症状
 1.振戦あり(安静時・姿勢時・動作時)なし
 2.寡動 仮面様顔貌 あり なし
      単調な言語 あり なし
      小刻み歩行 あり なし
      引きずり歩行 あり なし
      立ち直り反射障害 あり なし
  関節拘縮 
      右 あり(首・肩・手・股・膝・足) なし
      左 あり(首・肩・手・股・膝・足) なし
※該当する項目がll藍症であれば「あり」、もしくは「あり」の中に括弧で部位等が書かれている場合はその部位に○を付・け、1点と計算。それが迩症であれば、同様に◎を付け2点と計節する。つまり、軽症では最高で25点になるが、軽症では50点となる。

<血中ドーパミン濃度と脳脊髄液中ドーパミン濃度の比較>

なお、活性酸素と交感神経の緊張の程度については、新潟大学教授の安保徹先生の「白血球自律神経支配理論(交感神経が優位になれば白血球中の穎粒球が増加、副交感神経が優位になればリンパ球が増加するという説)」に基づき、末梢血リンパ球と願粒球の比率により推察することとした。

以上のことから、個々のパーキンソン病患者の末梢血リンパ球とSOD活性(SOD:活性酸素
分解酵素)、血中ドーパミン濃度を治療前後に測定して、さらに自覚症状と他党症状のSCORE表により、パーキンソン病の改善度を数値化した。

なお、リンパ球が増加し、蝋粒球が減少した場合、また本稿で用いた主な項目では、血中ドーパミン濃度が1000pg/ml以下の場合は増加、1000pg/ml以上の場合は減少(内服薬の関係で)、SOD活性が増加、SCORE表が減少していれば、治療効果があると考えていただきたい。

パーキンソン病の鍼灸治療の方法
パーキンソン病の鍼灸治療の効果を検討する前に、ここでパーキンソン病に対して行われる鍼灸治療の方法について考えてみたい。明治鍼灸大学の福田文彦らは、ラットを用い
た鍼灸治療における脳内モノアミンの増加について報告している。また上海中医薬大学など3施設からの報告では、鍼灸治療によるパーキンソン病の症状改善度は85.7%となっている。その中でもっとも有用とされているのは頭皮鍼であった。

確かに私が行っている治療でも、頭皮鍼を加えたものとそうでないものとでは症状の改善度に大きな遠いがあった。以下、頭皮鍼を用いた症例を報告するので、参考にされたい。

1)症例:68歳(男)
3年前からつまずきやすくなったとのことで、近医神経内科を受診。その結果、パーキンソン病の初期と診断された。L-ドーパを処方されたが、内服するも胃腸に負担がかかって飲
みたくないという。そこで当院を受診、薬以外で治療をしてほしいという。

検査をすると、血中ドーパミン濃度17pg/ml、SOD活性2.2U/ml、白血球5600(/ml)、血中におけるリンパ球の割合が28%であったため、鍼灸治療の適応と判断。遠方の患者だったこともあり、患者の自宅近くの鍼灸院を勧めた。

ところが、1カ月経って当院に来院したところ、手に振戦があり、歩行障害も改善していなかった。「鍼治療後はだるくなりませんか」と聞くと、「大変上手な先生で治療後も全くだるさはなく、体が軽くなる」という。そこで再検査を行った結果、血中ドーパミン濃度が5pg/ml以下、SOD活性2.8U/ml、白血球6000(/ml)、リンパ球35%と、副交感神経が優位となっているのに、血中ドーパミン濃度だけが減少していた。

これでは症状はとれない。そのため、頭に鍼を打ってもらっていますかと尋ねると、「いいえ」という。ぜひ頭皮に鍼を打ってもらってくださいと念押しし、患者も「わかりました」と帰っていった。

さらに1カ月後、患者は明るい表情で再度来院され、歩行障害も手の振戦もすっかりよくな
ったという。果たして血中ドーパミン濃度は22pg/mlになっていた。

2)副交感神経を優位にする治療
ここで重要なことは、ほとんどのパーキンソン病患者は交感神経が優位となっている点である。また、活性酸素を減らすことが治療の基本なので、鍼灸治療も副交感神経優位の治療をしなければいけない。この点は前・筑波技術短期大学学長の西條一止先生の論文に詳しいので参考にされたい。

要は呼気・座位・浅鍼(皮膚より4mmまで)ある。阿是穴治療では絶対に副交感神経が優位にならないということを肝に銘じておいていただきたい。当院では、交感神経と副交感神経の検討は、前述のように「白血球自律神経支配理論」にならい、リンパ球と順粒球を基準にしている。それに基づいた阿是穴治療と本治法を比較した結果は、表3のようになり、阿是穴治療では交感神経優位になってしまうのである。

つまり、副交感神経優位の鍼灸はいわゆる本治法と呼ばれる手技がこれにあたる。鍼灸治療には経絡治療や良導絡治療、北辰会方式など種々あるが、それらはもちろんのこと、中医学でも副交感神経優位の治療はできる。

本稿では浅見鉄男先生(内科医)の手技を基本として、安保先生と開業医の福田稔先生の考案された「自律神経免疫療法」を採用した。

以上をまとめると、下記のようになる。
①まず副交感神経の刺激のため、患者の全身状態をよく観察しながら四診とくに脈診により、“風”の存在部位(パーキンソン病は中医学で風に属する)を診断する(肝風や血風など)。
②手足の三焦経と胆経を除く井穴と去風(①で診断した)穴を刺激する。
③首の胸鎖乳突筋の緊張をよく観察し、緊張の強い側の耳介上部にぶよぶよしたポイントを見つけ(山元式頭皮針より)、ここを横刺し手足の振戦のリズムに合わせ捻転刺激する(これを週1回程度続けると、徐々に自覚症状が改善される)。

<表3 末梢血リンパ球と穎粒球の割合>

例えばある67歳の女性は肝陽化風によるパーキンソン病であったため、治療は、手足の井穴(三焦経と胆経を除く)を単刺、太衝、陽輔、足三里、大杼、肝命、腎愈に置鍼(肝腎の陰液を増加・三焦経と胆経の篭熱を解消・風をとる)、右頭皮振戦区に横刺捻転となる。
ただくれぐれも忘れてはいけないのは、鍼灸治療とは個々の患者で経穴が変わるのが「その本」であるということである。すなわち「この経穴が有効だ」とは断言できず、経穴の解説は大変むずかしいのである。

<パーキンソン病の治療結果>
以上を基本に、本治法としてセイリンディスポ鍼01番を用い、標治法としてセイリンディスポ鍼1番にて、パーキンソン病患者の頭皮に刺激をした。刺激には用手法を基本とし、症状に合わせ通電や灸頭鍼を併用した。治療を開始する前にSCORE表の記入と、リンパ球血中ドーパミン濃度およびSOD活性の検査を実施し、週1回の治療を基本として1カ月後に、再び同じ項目を調査した。

その結果が表4である。そのうち症状の改善をみたもPは21例で、原則としてL-ドーパは継続して服用してもらっていたが、勝手に服薬を中止してしまったのが症例3と症例5、それに症例12であった。特に症例5はドーパミン以外にアドレナリンが12pg/ml、ノルアドレナリンが76pg/m@と低値であったため、L-ドーパを中断してしまうことで、体が動かなくなってしまった症例である。これはくれぐれも自己判断で薬をやめてはいけない教訓となるケースである。

一方、症例6や症例8,症例14は劇的な症状の改善をみて、L-ドーパを休止できた例である。また、それ以外にも15例はL-ドーパを減量することができた。しかし、6例は症状の変化を認めず、また、前述した自己判断でL-ドーパを中止した3例は、著しい症状の悪化をみた。

表4パーキンソン病の鍼灸治療(血中ドーパミン濃度1000pg/ml以下の群)

ここでいくつか症例の詳細を見てみよう。
1)症例6:70歳(男)
5年前から手の振戦、歩行困難が出現。近医に通院し、カバサール(ドーパミン作動薬)、メネシット(L-ドーパ)、ドミン(ドーパミン作動薬)にて症状は安定していたが、1年前より姿勢反射がうまくいかなくなった。そのため、さらにドパール(L-ドーパ)を追加されたが、胃腸障害で内服できず、γ-ナイフによる定位脳手術を勧められた。

当院には、手術の前に一度鍼灸治療を試してみたいと来院。リンパ球24%、血中ドーパミン濃度636pg/ml、SOD活性2.2U/ml、SCORE表14点、165cm、55kg。非常にまじめで趣味はない。足の冷えはないが、便秘が強い。脈は弦渋、左寸浮濡、舌鋒、肝陽化風から血熱は心包逆伝と考え、右内関、左太衝、右陽輔、手足の井穴(三焦経と胆経は除く)を補法で刺激し、左神門を平補平潟。さらに頭皮の脳空付近にぶよぶよがあったので、用手にて捻転刺激した。

その結果、1カ月後には症状の改善がみられ、リンパ球26%、血中ドーパミン濃度842pg/ml、SOD活性2.8U/ml、SCORE表が0点となっていた。3カ月後には、カバサールは継続中だが、メネシット、ドミンを中止できた。その後も症状は安定している。

2)症例9:62歳(女)
3年前につまずきやすいという症状が出現。近医でパーキンソン病と言われ、アーテン(抗コリン薬)を処方されるも、次第に突進歩行、両手の振戦が出現した。大学病院で改めてパーキンソン病と診断。メネシットを処方され、症状が少し安定するが、歩行の改善がみられず、また薬がきれると急に体が動かなくなった(オン・オフ現象)。

リンパ球30%、血中ドーパミン濃度15pg/ml、SOD活性2.8U/ml、SCORE表10点、150cm,55kg。自営業でストレスが多かったという。脈は滑脈、右関弦滑、舌白胖大。脾胃湿盛が督脈陽明に湿阻を起こしたと考え、左合谷、右陰陵泉に補法。大椎、脾念に灸頭鍼。手足の井穴(三焦経と胆経を除く)と頭皮鍼で率谷付近の反応点に刺激を加えた。

すると1カ月後には、リンパ球34%、血中ドーパミン濃度119pg/ml、SOD活性2.8U/ml、SCORE表4点となり、メネシットはそのまま内服しているが、オン・オフ現象がなくなったと喜ばれている。

一方、表5の11例は、L-ドーパを内服しているために血中ドーパミン濃度が異常に高い値を示すものである。鍼灸治療によってL-ドーパ等の内服量は変わらないが、活性酸素が減少すると同時に血中ドーパミンが減少した。なお11例のうち1例は症状の悪化を認め、γ-ナイフによる定位脳手術を勧めた(症例29)。

3)症例28:59歳(女)
3年前より右手の振戦が出現し、徐々に歩行障害が出現してきた。近医にて処方されたマドパー(L-ドーパ)、エフピー(MAO阻害薬:セレギリン)、メネシットを内服中である。
リンパ球38%、血中ドーパミン濃度1175pg/ml、SOD活性3.1U/ml、SCORE表8点、160cm、58kg  便秘、冷えあり。脈は弦脈、左関弦、舌於血、腹胸11附苦満、肝|場化風と考え、右太衝、左足三里、左内関を補法。手足井穴(三焦経と胆経を除く)と右脳空、そして四神聰に刺鍼した。

1カ月後、非常に体が軽くなったという。振戦は消失するも、まだ少し歩行障害が残る。リ
ンパ球51%、血中ドーパミン濃度835pg/ml、SOD活性3.7U/ml、SCORE表2点。薬の内服量は変わっていない。現在も治療を継続中で、すこぶる元気である。

表5 パーキンソン病の鍼灸治療(血中ドーパミン濃度1000pg/ml以上の群)

<脳血管性パーキソニズムの治療結果>
脳血管性パーキンソニズムの場合、患者は高齢で症状も重症のケースが多く、治療に難渋することが多い。またL-ドーパも有効でないことが多いため、現代治療でもなかなか治療しにくいというのが現状である。表6のように、鍼灸治療で6例中3例は症状の改善をみたが、3例は無効、もしくは悪化した。
・・・表6 脳血管性パーキンソニズムの鍼灸治療(省略)

<変性疾患パーキソニズムの治療結果>
表7にあるとおり、2例ともMSA(multiplesystematrophy:多系統萎縮症)の症例で、自力では歩行できないケースである。症例1はSCORE表はほぼ変わらないものの、鍼灸治療により、夜間に介護者である夫の知らない間にトイレに自力で歩いていったと驚かれたケースである。症例2は鍼灸治療の後、鼻腔栄養を行っていた状態だったのが、食べ物を口にすることができるようになったケースである。

表7変性疾患パーキンソニズムの鍼灸治療

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パーキンソン病について、鍼灸療法は有意に血中ドーパミンを増加させた。中にはL-ドー
パを休薬できる人もいたが、これはまれなケースで、L-ドーパなどの薬を用いながら症状の改善を目標に、鍼灸治療を行うのが望ましい。

またL-ドーパが過剰な場合は、活性酸素を減少させることにより血中ドーパミンを減少さ
せることができた。これにより交感神経の緊張による自律神経症状を軽減させうると考える。

鍼灸治療が無効な場合は、もともと交感神経の緊張を認めないケースで、リンパ球を調べるか、もしくは交感神経の緊張を脈状診で確認されたい。

鍼灸治療のポイントは副交感神経を刺激する治療であること、また頭皮鍼を併用することである。

脳血管性パーキンソニズムや変性疾患パーキンソニズムにおいても、症状の緩和を目的に行う鍼灸治療は有用であると思われるが、これらは重症なケースが多いので、主治医と連絡をとりながら治療されることが望ましい。

パーキンソン病にかかわらず、鍼灸治療とはNBMを「その本」とするため、個々によってその治療穴は異なる。そのため患者の病態の正確な診断が必要である。特にパーキンソン病は中医学的には、「風」に属するため、どこから風が出現したのかをしっかり把握して治療穴を選択していただきたい。

さらにドーパミンを増加もしくは調整するために、頭皮鍼は有用である。決して交感神経優
位にならないように、自分なりの副交感神経調整療法を持っていただきたいと考える。
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