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2016年10月 4日 (火)

パーキンソン病について

<医師と鍼灸師の座談会より>

パーキンソン病は数ある神経変性疾慰の中では、アルツハイマー病に次いで2番目に頻度が高く、10万人に50人から150人が罹患していると言われています。

パーキンソン病の'1つの特徴として、加齢によって発症頻度が高くなることが挙げられます。そのため65歳以上の場合では、パーキンソン病の有病率は500人に1人になると言われています。加齢によって増え、かつ慢性に経過する神経疾患であることから、今後鍼灸業界が力を入れて取り組んでいくべき非常に大事な疾患だと思います。

パーキンソン病は筋強剛(筋固縮)が非常に強いので、最初は筋強剛に伴う肩こりや腰痛を鍼灸で治療するのが一番良いと思っていました。しかし、安保先生が「いや、それだけではない。パーキンソン病には自律神経が関係しているんだ」という説を出されたのをきっかけに、改めて考えてみると、確かにパーキンソン病では自律神経が症状に影響を与えているケースがかなり多いのですね。それで、「じゃあ治療してみようかな」と実際に治療してみたら、ドーパミンの値にも変化を与えることがわかってきました。

鍼灸治療によって寛解するとは言えませんが、 症状を緩和したり、パーキンソン病の治療で不可欠になっているL-ドーパ製剤(以下、L-ドーパ)を減量できる人もいるのでパー キンソン病に対する鍼灸治療は、これから非常に期待できるのではないかと思っています。

パーキンソン病の発症のメカニズムを簡単に概説しますと、パーキンソン病は中脳にある黒質のドーパミン作動性ニューロンが変性脱落、つまり死んでしまうことで線条体のドーパミン濃度が低下することによって起こります。

原因についてはまだはっきりとはわかっていませんが、遺伝や環境因子など色々な要因がお互いに関連しながら発症に関与していると考えられています。
遺伝については、現在はっきりと発症に関与していると特定されている遺伝子が2つ見つかっています。

その他の要因では生活習慣、例えばたばこを吸わない、お酒を飲まない、そういったことも関与しているとする文献もあります。それから患者には几帳面、非社交的、まじめ、無口といった性格が多くみられるという報告もあります。

次にパーキンソン病の臨床症状ですが、パーキンソン病には、安静時振戦、筋強剛(筋固縮)、無動(動作緩慢)、姿勢反射障害の4大症状があります。

安静時振戦とは、手を膝の上に置いているときなどに出てくるような振戦を言います。ピルローリングといって丸薬を丸めるような運動が特徴的です。

2番目が筋強剛です。これは患者から自発的に訴える症状ではないので、治療者や診察者が診ないとわかりません(注:筋強剛の診かたについては後述、パーキンソン病の診断において極めて重要な他覚的所見)。

3番目は無動(動作緩慢)です。動作が非常に遅くなるため、患者からの主訴の1つになる症状です。実は主訴や初発症状で一番何が多いかと言うと、やはり振戦が多いのですが、その次には、歩行障害や動作緩慢といった無動に関する症状が多いことがわかっています。

4番目は姿勢反射障害ですが、これは非常に転倒しやすい、歩くときに「とつとつとっ」と小刻みになりやすい、そういうような歩行障害や姿勢の異常のことを言います。
1996年に厚生省(当時)の特定疾患調査研究班がパーキンソン病の診断基準を出してますが、ふるえや動作が遅いという自覚症状に加えて、神経所見としてこの4大症状のうち1つ以上があれば、パーキンソン病の診断に近づくと言われています。

完全に診断するには、画像所見を参考にしたり、薬剤の使用を確認した上で他の疾患除外する必要があり、またL-ドーパなどの抗パーキンソン病薬による治療で明らかな症状の改善がみられるという基準もあるので、最終的な診断は医療機関でないと難しいのが現状です。

西洋医学で行われている治療を簡単に説明します。

ドーパミンの前駆体であるL-ドーパが導入されたのが1967年です。それ以前には抗コリン薬であるトリへキシフェニジル(商品名アーテン)が使われていました。L-ドーパが非常に画期的だったのは、非常によく効いたことです。ところが、L-ドーパが導入されてから20数年経った頃から、L-ドーパを長期間使っていると、体が勝手に動いたり、幻覚が出現したり、あるいは突然L-ドーパの効果が切れたり、そういう副作用が確認されてきました。

そこで、ドーパミンアゴニスI、(ドーパミン作動薬:ドーパミン受容体を刺激する薬剤)1974年に導入され、現在ではL-ドーパを少量に抑えながらドーパミンアゴニストを併用していく、あるいは若い患者であれば最初からドーパミンアゴニストを使う治療法が主流になっています。

さらに最近では、線条体のドーパミン濃度を高める意味で、ドーパミンの分解を阻害するようなMAO阻害薬やCOMT阻害薬なども出てきている状況です。

しかし、どれもパーキンソン病を根治させるものではありませんので、治療の基本は今でもL-トーハであることに変わりはないと言えます。

明治鍼灸大学では中医学的な鍼灸治療が中心になります。八網弁証ももちろん行いますが、私たちは臓肺弁証で肝・心・脾・肺・腎、あるいは気血弁証で気・血・津液に分けて鍼灸治療しています。パーキンソン病の場合は、五臓であれば圧倒的に肝の病証であることが多いので、肝腎、あるいは肝脾の証ととらえて治療します。一方、気血弁証であれば、肝とかかわりの強い血虚の病証、あるいは癖血の病証、それから腎陰虚証として治療します。
その一方で、例えば背中のこりや脚のこわばりなどに対しては、十分な触診の上、筋肉の緊張部位に局所的な鍼灸治療も施しています。

他に特徴的な治療法としては、振戦が強い患者には鍼通電療法も用います。例えば手の振戦には曲池と合谷に刺鍼して、3.5Hz~5Hz程度で筋収縮を認めるような鍼通電療法を15分間ぐらい続けます。

また頭皮鍼療法(以下、頭皮鍼)を併用すると、患者の状態も良くなるように思います。
ですから、最初はあまりたくさん触らずにこわばっている箇所に少し刺鍼する程度で済ませ、患者がだんだん治療に慣れるに従って、全身的な治療を多く加えるほうがいいのか、通電刺激を行うほうがいいのか、方法を患者に合わせて治療しています。

基本的にパーキンソン病は交感神経優位ですから、私のクリニックでは副交感神経を優位にさせる鍼灸治療が中心になります。安保先生が自律神経免疫療法を推奨されているので、私はそれに従っていますが、治療法は経絡治療や北辰会方式、良導絡治療であっても何でも良いと思います。ただ副交感神経を優位にさせることが一番の原則だと思っています。

具体的には患者の全身をひと通り診た後、脈状診で風がどこから吹いているのかを判断することが重要になります。つまり肝風なのか、血風なのか、それとも湿熱の風なのかをしっかり診断すれば、太衝、太繍、足三里、風門、大杼、内関、曲池など、どの経穴を使うかは決まってくるので、それらを使って副交感ネII経優位にします。

副交感神経が優位に変化したかは脈を診ればわかるので、変わったと思ったら今度は頭皮鍼をします。頭皮鍼はまだ学問的に解明されていませんが、振戦などには中国では頭皮鍼が一番良いと言われています。頭皮鍼にはいろいろな方法がありますが、私は胸鎖乳突筋の緊張を見ながら、耳の上の辺り、中国で言う振戦区に刺鍼し、手や足の振戦のサイクルに合わせながら、少し捻転刺激を与えています。

よく「パーキンソン病にはどこの経穴が良いですか」と聞かれますが、鍼灸治療は要するに個々の患者に合った、個々で違う医療です。つまり、個々の患者の風のあり方、患者の交感神経・副交感神経のあり方で取穴などは変わってくるので、副交感神経を優位にさせるような治療で、頭皮鍼さえ加えていただければ、私の方法でなくても良いと鍼灸師の先生方にはいつも強調しています。

採血できれば穎粒球の数、リンパ球の数がわかるので一番簡単です。ですが、鍼灸院では採血できないので、全身を診たり、脈状診で確認すれば良いと思います。
交感神経が優位になっていると、例えば肝が弦脈になったり、非常に血管が細く細脈になっていたりするので判断できます。

鍼灸治療部では、赤羽氏法、良導絡治療、北辰会方式、中医学、トリガーポイントなど、鍼灸師によって様々な方法が行われています。

一方、神経内科の外来で行う鍼灸治療では、リハビリテーションの動作分析を用いた評価とその結果に基づいた循経取穴を中心とした東洋医学的治療や中医学の概念による治療を行っています。
例えば筋強剛については筋強剛のある筋肉に直接刺鍼せず、循経取穴の概念による遠隔治療をしています。

また数例の経験しかありませんが、頭皮鍼をすると、患者から「温かい感じがする」という訴えがあります。ジストニア患者でも同様に改善することがあるので、頭皮鍼も重要な治療手段として用いています。

パーキンソン病患者は体幹が屈曲姿勢なので、よく腰痛を訴えます。この場合、屈曲姿勢が改善しないと腰痛も改善しません。そこで腹部を触診して、皮膚や筋肉が長期間の体幹屈曲姿勢によって短縮している部位に、集毛鍼を使って刺激を加えます。私がストレッチを施すのと、実際に鍼灸師が皮膚を伸ばしながら集毛鍼を患者に施した場合、どちらが早く屈曲姿勢を改善できるか比較しても、集毛鍼で刺激をしたほうが体幹は伸びます。その結果、腰痛も軽減するという経験があるので、パーキンソン病の二次的な症状に集毛鍼は使えると考えています。
屈曲姿勢になっていると、脊柱起立筋が過緊張を引き起こします。そういう場合、循経取穴の概念により昆命に刺激をしても一過性に腰痛も改善しますが、やはり姿勢異常があれば、腰痛は再発します。ですから、腰痛治療には姿勢改善が重要です。

非常に虚証が強くなった場合は、刺鍼が駄目な人がいるので、そういう場合には、集毛鍼なども1つの方法だと思いますね。

私は1週間に1回を基本にしています。患者が2回来たいと言えば、2回、3回と治療することもありますが、個人的には週に2回の治療が良いと思っています。鍼灸師のマンワー不足があって、我々の鍼灸治療は週1回を基本としています。なぜ2回が良いという印象を持っているかと言うと、「治療後3日ぐらいまでしか効かない」という訴えが患者から多いからです。だいたい3日ぐらいで元に戻ってしまうケースがあるので、私のクリニックでも週1,2回の治療をしています。

振戦や無動に対して鍼灸治療をすると軽減したという話はよくあるのですが、私は結局、どんな治療にしるそれが有効かどうかは、患者の病気の経過に影響するものでないとあまり意味がないと思っています。
例えばL-ドーパだと、長くなると副作用も出ますが、確実にその人の経過を変えていきます。確かに1日、2日良くなるのも大事なのですが、鍼灸治療は患者の病気の経過を変える効果や作用が本当にあるのでしょうか。

長期効果で言うと、L-ドーパの量は同じなのですが、鍼灸治療によって“オン・オフ現象(薬を服用中にもかかわらず、急に動けなくなったり、動けるようになったりする現象)”が改善されてきたケースもあります。中にはL-ドーパを減量できたり、完全に廃薬した方もいます。

ただ私の患者で長い人でも最長2年ぐらいしか経過をみていませんので、果たしてずっと良い状態が続くかどうかはわかりません。今のところは長期間鍼灸治療を続けて、経過の良い患者がたくさんいる状態です。

しかし、L-ドーパを減量できても、それが鍼灸治療に置き換わっただけとなると、患者にとってのつらさは同じだと思います。確かに鍼灸治療をやめても、L-ドーパを減量したままうまく経過しているケースもありますが、長期効果の判断は難しいところですね。

鍼灸に置き換えて、L-ドーパをやめられれば確かに一番良いと思うのですが、ただL-ドーパを急激にやめると、全く動けなくなったり、悪性症候群という非常に重篤な病態が誘発される場合があるので、L-ドーパを減量するにしても非常に徐々に調節していかなければ難しいと思います。

鍼灸と西洋医学がスクラムを組んでいる場合でないと、L-ドーパを減らすのは難しいと思います。私は鍼灸治療が効果を表すためには治療を継続しなければいけないと考えているので、患者にも気長に鍼灸治療と付き合ってくださいと言います。

しかし、やはり1週間に1回、それを2年も3年も続けると患者も少し飽きてくるので、一度治療を休止してみるのも良いと思います。それで、また何か気になることが出てくれば、集中して1カ月間、2カ月間は毎週来てみる。そういった形で、私はなるべく患者に長く鍼灸治療と付き合ってもらって、L-ドーパだけより鍼灸治療を併用したほうが体には良いですよと言っています。

あと鍼灸院で長く治療しないほうが良いケースがあります。1つは薬のことも関係しますが、幻覚、精神症状が出てきた場合です。2つ目は痴呆が進行してきた場合、そして3つ目は先ほど触れたMSAですね。こうした場合は西洋医学に任せたほうが良いと思います。

MSAは初発症状ではパーキンソン病とほとんど区別できない場合もありますが、声帯が麻痺して(声帯外転麻痺)、気道閉塞により呼吸困難をきたし突然死に至ることがあるので、あまり長く抱えておかないほうが良いと思います。

<鍼灸院でもできる運動指導>
次はリハビリテーションについて、治療を含めてお話願えますか。
パーキンソン病の治療としてリハビリテーションは重要です。しかし、「今までリハビリをやってきました」と患者が言っても、実態は体育館で自己流の運動をしていたとか、主治医にパンフレットをもらって体操をしている程度で、実際はパーキンソン病患者で運動療法をきちんと受けているケースはそんなに多くないと思います。

パーキンソン病患者は全体的に屈曲姿勢で、重心は後方に変位しています。例えばパーキンソン病患者の立位では、重心が健常者よりも後方に変位しているために、正しく立位姿勢をとらせてあげないと、患者は後方に転倒してしまいます。

また、パーキンソン病患者は、運動の開始に関与することと、運動を自動実行させることの
2つの大きな役割を持つ大脳基底核が障害されているので、運動療法に関しても、「第1歩目をどう出させるか」、そして「実際動いたものをどのように円滑に維持させるか」が大切になります。

具体的にはまず脚にきちんと体重をかけながら身体を伸展させる運動を指導します。次に左右の体重移動、身体全体を左右へ移動させるような歩き方を指導します。普通我々が歩行するとき、重心の移動は中心部から両側方に5センチほど動くので、パーキンソン病患者の歩行も同様に左右へ移動をさせます。このときに大切なことは肩だけを動かすのではなく、全身で左右への体重移動を促してあげるのが、一番円滑に歩行を助ける運動療法になります。これは広いスペースは必要なく、鍼灸院で十分にできる運動療法なので、せひ実践していただきたいと思います。

余談ですが、ハ|、やニワトリは歩くときに首を振って動きますよね。それはなぜかと言うと、左右への体重移動ができないため、前後に駆動性を求めて、それによって歩いているからです。パーキンソン病患者も身体が硬いために、ハトと同じ状態なのです。ですから、リハビリテーションの現場でよく見られる、「何か物を持って。次に大きく脚をあげて、もっとあげて」というような訓練は、パーキンソン病患者に対しては禁忌になります。本にはあまり書いていませんが、このような脚ぶみの練習は、転倒を助長します。

それともう1点。パーキンソン病患者はよくメトロノームなどリズムに合わせると動きやすいと言われています。パーキンソン病患者は大脳基底核が障害されているために運動開始が困難になっており、音などの外部刺激に働く小脳を経由して運動をする特徴があるからなのです。

ですから、パーキンソン病に対する運動療法では、音刺激や視覚刺激、すなわちリズムに合わせて動かせることは1つの工夫ではあります。しかし、ただそれを長く使っていると、患者が歩きたいと思うときに歩けない病態をつくってしまいます。

私もパーキンソン病患者の歩行にはリズムをとらせると読んだことがあります。それはあまり良くないのですか。

常にリズムをとらせることは良くないと思います。でも、どうすれば良いかと聞かれると、私もその兼ね合いを研究している段階なので難しいですね。

リハビリ以外の日常生活の指導などで何か注意点はありますか。

パーキンソン病では便秘を解消するようによく言われますよね。植木彰先生(自治医科大学大宮医療センター教授)は水を飲ませろとおっしゃっています。あまり水ばかり飲ませてもいけないとは思いますが、患者に便秘をさせないことは大事な指導です。

西洋医学で対応が困難な症状が幾つかあります。その中に便秘や、夜間に頻尿になる蓄尿障害などがあります。こういう症状に対して、鍼灸が寄与できれば非常にすばらしいと思いますので、ぜひ検討していただきたいですね。

パーキンソン病に付随する様々な症状、L-ドーパだけで解決できないような症状、あるいは不定愁訴、自律神経症状、瘻痛などに対して、鍼灸は非常に有効です。今の神経内科の治療に加えて、鍼灸治療を積極的に取り入れると非常に良いと思います。

しかし、果たして鍼灸治療そのものが脳内のドーパミンにどれぐらい作用しているのか、あるいはタイプの異なるパーキンソン病に対してどのくらい鍼灸は治療効果があるのかを調査することは、これからの課題だと思います。

現在、パーキンソン病に対する鍼灸効果を検討する時期にきているので、全国の先生方もどんどん症例を報告していただきたいと思います。また、私のところから紹介でパーキンソン病の患者が来ても、治療や病態でよくわからなければ私に連絡していただいて結構ですので、嫌がらずに治療していただきたいと思います。

繰り返しになりますが、パーキンソン病について基本的なことを知っていなければ、患者の苦しみを分かっこともできないし、患者の信頼も得られません。また、鍼灸師が病気に対して深い理解がないと、患者は治療を続けてくれないのです。私は1人の治療者としてまだまだ勉強不足を感じると同時に、先生方の話を聞く機会を今後とも持ち続けたいと思います。

私もパーキンソン病に対して鍼灸治療はすごく有効性があると思っています。パーキンソン病ではありませんが、現在、関西鍼灸大学附属診療所にはジストニア患者が全国から紹介で来院しています。というのも、我々は鍼灸の学会だけではなく、他の医学会などでジストニア患者の鍼灸治療効果を毎年報告してきた経緯があるからなのです。医師の先生方は最初は全く興味を示してくれませんでしたが、最近では報告が終わってから質問が多くなってきました。同時に、大病院からの紹介も増え、医師の先生方も困っているという印象を持っています。

ですから、パーキンソン病についても他の医学会で、鍼灸治療の良い点悪い点を含めて報告することが、鍼灸院に患者が来ることにつながると思います。鍼灸がパーキンソン病に効果があることを知っていただく活動を今後行えれば良いと思っています。

パーキンソン病の患者は必ず薬を飲んでいるので、主治医と緊密に連絡を取ることも大切になる。パーキンソン病は治らない病気というイメージが強いですが、様々な文献等で明らかになっているように、罹患してもほとんど寿命は変わりません。

L-ドーパの寄与するところが大きいのですが、L-ドーパだけではなく、周辺の治療を含めて非常にうまくコントロールすると、パーキンソン病は天寿をまっとうできる疾患なのです。ですから、鍼灸師の先生方には患者に、全然怖い病気じゃないんだよということをぜひ説明していただきたいと思います。天寿をまっとうできるからこそ、QOL(qualityoflife)を高めることが大事だということですね。

<パーキンソン病の病態>
パーキンソン病は、中脳黒質のドーパミン含有神経細胞が変性・脱落する(神経細胞が死んでしまう)ことにより線条体のドーパミン濃度が低下し、4大運動症状(振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害)を中心とした特有の症状が出現する疾患である。

鑑別が必要な疾患としては、中脳黒質の神経細胞の脱落ではなく、他の要因で二次的にパーキンソン病と同様の症状(パーキンソニズム)をきたす疾患群(表1)が挙げられる。これらの疾患では、パーキンソン病に比べて西洋医学的治療効果、合併する症状、予後などが異なるため、鍼灸治療を行いながら追跡する場合は、それらを踏まえながら経過を追わねばならない。

西洋医学的治療では、ドーパミンの前駆物質であるL-ドーパ(レボドパ)製剤を投与し、脳内ドーパミンを補充する方法が中心である。このL-ドーパ療法は、原因療法ではなく補充療法であるため、原則的には一生服用し続けなければならない。近年、長期的なL-ドーパ治療により様々な問題が生じることが次第に判明してきたため、L-ドーパの使用を抑え、他の薬剤を併用する多剤併用療法が主流になってきている。

ヒト中脳黒質には約20万個のドーパミン含有神経細胞があるといわれているが、加齢とともに徐々に減少する。さらにその神経細胞減少に伴って、投射先である線条体のドーパミン濃度が低下する。この中脳黒質にあるドーパミン含有神経細胞数、あるいは線条体ドーパミン量が約20%以下にまで低下するとパーキンソン病が発症する。これらは生理的には20歳代から非常にゆっくりと低下し、正常老化では100歳から120歳で20%以下になるがl)、パーキンソン病では、過伝的素因、環境要因2)など多くの要因が重なって、30歳代、40歳代から比較的急速に低下し、50~60歳代で20%以下になるため、その年代で発症してしまう。

このようにパーキンソン病に至る病態としては、ドーパミン含有神経細胞の変性・脱落がその根本であることが判明しているが、神経細胞死がどのような原因・機序で起こってくるかはまだ完全にはわかっていない。これは他の神経変性疾患(神経細胞がゆっくりとではあるが、徐々に死滅していく疾患群)、例えばアルツハイマー病(大脳皮質や海馬の神経細胞脱落)、筋萎縮性側索硬化症(大脳皮質や脊髄の運動神経細胞の脱落)、脊髄小脳変性症(小脳神経細胞の脱落と出入力線維の変性)などでも同様で、神経細胞死に至る原因については精力的に研究がなされているが、完全には解明されていない。

共通して言えるのは、一部は遺伝子異常により発症し、その他は遺伝的素因に環境要因が加わって発症するという考え方である。パーキンソン病でも約10%が遺伝子異常であるといわれているが、残りの90%については、遺伝的素因と環境要因が重なった場合に発症する「多因子説」が想定されている)。

パーキンソン病発症の環境要因としては、生活習|貫(飲酒や喫煙、食生活、運動習慣など)や体格、性格(几帳面、真面目、趣味がない)あるいは環境物質(農薬、除草剤などへの暴露)、病原微生物(ウイルス)など様々な因子について検討がなされ、一部には発症と有意に関連するという報告もあるが、諸説あり明確に危険因子として断定されているものはまだない。

(表1 パーキンソン病と症候性パーキンソニズム)
1、パーキンソン病(本態性パーキンソニズム)
2、症候性パーキンソニズム
 a.薬剤性パーキンソニズム
 b.脳血管性パーキンソニズム
 c.神経変性疾怨によるパーキンソニズム
 ・線条体黒質変性症(SND)
 ・進行性核上性麻痺(PSP)
 ・大脳皮質基底核変性症(CBD)
 ・多系統萎縮症(MSA)
 ・びまん性レビー小体病(DIBD)
 ・アルツハイマー病

パーキンソン病の鑑別診断
パーキンソン病の診断においては、4大運動症状とその他の自律神経症状(起立性低血圧、便秘、排尿障害、脂顔など)を系統的に把握・理解することが重要であるが、実|際の臨床では以下のような手順で診断を進めると便利である。

すなわち視診と問診で大方の見当をつけ、そのあと直接患者に触って理学所見をとり確認するという手順である。パーキンソン病と鑑別しなければならない疾患を表1.に示すが、それらの鑑別は以下のように診断を進めていく過程で、パーキンソン病と合致しない所見があるかどうかで(以下に"パーキンソン病らしくない所見”として記載)判断する。鑑別すべき疾患で最も多く、しかも重要なのは脳血管性パーキンソニズムと薬剤性パーキンソニズムである。

1 ) 視診
視診では①顔貌、②姿勢、③歩行に着目する。
顔貌では仮面様、すなわち表情が乏しく顔面の動きが少ないかどうかをみる。
姿勢では、前傾前屈で、それに加えて肘、膝などの関節が屈曲し、足の横幅が狭ければ疑いが強くなる。
歩行では、パーキンソン歩行、すなわち小刻み歩行やすくみ足(歩行の開始時や転回時に下肢が前に出ない)などがないかを確認する。特に患者が診察室・治療室に入ってくる際に、これらに注意して観察するように心がける。

視診で特筆しておきたいのは、歩行を観察する場合、下肢の運びをみることももちろん重要であるが、同時に「腕の振り」を観察することである。パーキンソン病の場合は、初期には必ず症状に左右差があるため、どちらかの腕の振りが小さくなる。また、歩行時に上肢の振戦が一方のみにみられることも多い。

視診においてパーキンソン病らしくない所見としては、小刻み歩行であるにもかかわらず、身体が前傾前屈していない場合である。つまり、身体がむしろ伸展傾向で、膝関節も伸展している姿勢で足の横幅が比較的広い場合は、脳血管性パーキンソニズムを疑う。最終的な脳血管性パーキンソニズムの確認にはMRIなどの画像診断が必要である。

次に、初期のパーキンソン歩行が疑われるにもかかわらず、腕の振りに左右差が全くない場合もパーキンソン病らしくないため、薬剤性パーキンソニズムや変性疾患によるパーキンソニズムなどを念頭におく必要がある。薬剤性パーキンソニズムの最終的な診断は時に困難であるが、いずれにしても患者の服用している薬をチェックする習慣をつけておくこが望ましい。

2 ) 問診
問では、まず患者の訴えを受容し、時間をかけて聞くことから始めるのは、他の疾患と同様である。パーキンソン病患者の主訴の約半数は振戦である。振戦がある場合は、ほとんどの場合患者のほうから訴えるので、問診で聞き逃す心配はないが、問診で聞き逃してはならないのはその振戦がどのような場合に起こるかということである。

パーキンソン病の振戦は4~6Hzの比較的ゆっくりとした振戦で、安静時に起こる(安静時振戦)。典型的には、上肢を膝の上やテーブルの上においてしばらくすると出現する。一方、安静時には振戦は起こらず、むしろ何か動作をするとき(例えばコップを口に持っていったときや、カップに入ったコーヒーをスプーンで混ぜるとき)に起こるふるえ(動作時振戦)は、パーキンソン病らしくなく、他の疾患による振戦、すなわち本態性振戦や小脳性の振戦などを考慮する必要がある。

パーキンソン病の主訴で振戦の次に多いのが、歩行障害と動作緩慢(無動)である。歩行障害は先に述べた視診で確認できる。動作緩慢については視診も重要であるが、問診で詳しく聞いておくと診断の助けになる。動作緩慢を問診で拾い上げるには、以下のような内容について聞くとよい。

①寝返り、寝起きに以前より時間がかからないかどうか。特にベッドではなく、畳など床に布団を敷いて寝ている場合に、パーキンソン病では臥位から起立までに要する時間が長くかかることが多い。

②服の着替えをするのに以前より時間がかからないかどうか。

③ボタンをとめたり、靴のヒモを結んだりするのが以前より下手になっていないかどうか。

④歩行時の転回の際に以前に比べてスムーズにいかないことが多いかどうか。

これらについては、患者自身から訴えのないことが多いため、問診の段階で患者本人、場合によっては配偶者やその他の家族などに確認する必要がある。
姿勢反射障害については、最近転倒しやすくなってきていないかどうかを聞く(易転倒性)。
パーキンソン病では、歩行時などにバランスを失った際に、姿勢を立て直すことができずに転倒する。後方に転倒する場合が多いが、前方、側方に転倒しやすいこともある。

3)理学所見
理学所見で最も重要なのは、筋強剛である。4大運動症状のうち振戦、無動、姿勢反射障害は、主訴として患者から訴えがあったり、あるいは視診や問診でかなりの程度まで把握できるが、筋強剛は直接患者を診察しなければその有無がわからない。筋強剛がみられた場合は、パーキンソン病の診断に大きく近づく。

筋強剛は、「四肢を他動的に屈曲・伸展させたときに診察者がその手に感じる抵抗」と定義できる。典型的には、関節の曲げ伸ばしの際に「ガクガクガク(歯車現象:歯車を回すときのような感触)」という感触を診察者がその手に感じる。特に、手関節と肘関節の屈曲伸展、前腕の回内回外で出やすいため、左右交互に調べて歯車現象の有無を確認するとよい。視診、問診でパーキンソン病を疑い、診察すると歯車現象が|湯性で、しかも左右差があれば、パーキンソン病の診断がほぼできたといっても過言ではない。筋強剛を感じるが、それが弱い場合は、対側の上肢を挙上させたり、あるいは対側の手でタッピングなどの作業をさせてみると、検査を行っている側の筋強剛がより顕著になる(手首固化徴候)ので一度試してほしい。

筋強剛の有無を診察した際に、パーキンソン病らしくない場合としては、次の2つがある。
1つは、曲げ伸ばしの際、パーキンソン病では曲げるときも伸ばすときもどちらもその抵抗はほぼ同じであるが、曲げ伸ばしで抵抗が明らかに異なる場合である。この場合は、筋強剛ではなく、むしろ痙縮を疑う。すなわち四肢深部腱反射などを行い、錐体路障害の有無を確認しなければならない。

2つ目は、曲げ伸ばしで同じ抵抗を感じるが、それが「ガクガクガク」ではなく、一様な抵抗(鉛管現象:鉛管を曲げ伸ばしする|際に感じるであろう抵抗)を感じる場合である。鉛管様の筋強剛がみられる場合は、パーキンソン病の可能性もなくはないが、薬剤性や脳血管性のパーキンソニズムを念頭におく必要がある。

パーキンソン病の西洋医学的治療
西洋医学的治療については、そのエビデンスレベルも含め日本神経学会のホームページ「パ-キンソン病治療ガイドライン」に詳しく記載されている。

大まかに述べると、
①薬物治療
②リハビリテーション
③手術療法
④その他(電気けいれん療法、磁気刺激療法)
などがある。

現時点での中心的治療は薬物療法である。④のその他の療法については、今後さらなるエビデンスの集積が必要であると考えられている。薬物による治療では、L-ドーパをはじめとする薬物をうまく組み合わせて治療を行うことにより、パーキンソン病の進行を遅らせ、嚥下障害や肺炎などの合併症を予防し、寿命を全うすることができるようになってきている。パーキンソン病では表2のような薬物が主として使われるが、現在、薬物療法については以下のような基本的方針がある。

①L-ドーパの使用をなるべく少なくする。
②ドーパミン作動薬を中心とした多剤併用による治療を行う。

<パーキンソン病の主な治療薬 ()内は商品名>
1.L-ドーパ製剤
(マドパー、ECドパール、メネシット、ネオドパストン)

2.ドーパミン作動薬(受容体刺激薬)
ブロモクリプチン(パーロデル)、ペルゴリド(ペルマックス)、カベルゴリン(カバサール)、タリペキソール(ドミン)

3.ドーパミン放出作用薬 
アマンタジン(シンメトレル)

4.抗コリン薬
トリへキシフェニジル(アーテン)

5.ノルアドレナリン作動薬
ドロキシドパ(ドプス)

6.MAO阻害薬
セレギリン(エフピー)

7.COMTI刑宵薬
トルカポン、エンタカポン

L-ドーパは、使用開始当初は胃腸症状(吐き気や食欲不振)が出現するが、それを乗り越えることができた場合は、パーキンソン病の諸症状を抑えるのに十分な量が使われると、非常に有効である。ところが、数年以上の長期投与により、いろいろと日常生活を困難にする症状が出現することが次第にわかってきた。すなわち不随意運動(ジスキネジア)、幻覚、症状の日内変動などである。従って、現在では、L-ドーパをはじめ各薬物の量をなるべく控え、多剤を併用することにより必要な薬効を得る治療法が主流となってきている。

ジスキネジアは自分の意志と関係なく頭部や体幹、四肢が勝手にねじれるような運動が起こる病態である。幻覚は視覚性の幻覚のことが多く、人物や動物などが特に夜間に見えることが多い。しかし、患者自身が幻覚であることを承知していて、それに左右されない場合もある。

ジスキネジアや幻覚が出現すれば、L-ドーパの使用量を減ずるのが基本ではあるが、もし日常生活にあまり差し障りがなければ、そのままL-ドーパを減量せずに様子をみることもある。薬剤の使用量を減らせば、運動症状が悪くなるからである。

症状の日内変動とは、薬の効果が以前より早く切れたり(ウェアリング・オフ現象)、服薬時間に関係なく突然動けなくなったりする(オン・オフ現象)ことで、これらが出現すると日常生活が非常に困難となることが多い。こうした症状の日内変動を回避するには、やはりL-ドーパの使用量を減らして、上に挙げたように主にドーパミン作動薬を中心とした多剤併用による治療に変更していく必要がある。

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パーキンソン病の診断には、高度な機器は必ずしも必要ではない。上に述べたように視診、問診、筋強剛(歯車現象)の確認が最も重要であり、それらによりほぼ診断できるといっても過言ではない。まず診察してみるという習慣をつけていただきたい。また、これらの診察は、パーキンソン病の経過を把握する際にも非常に有用である。

鑑別診断では、薬剤性と脳血管性パーキンソニズムが重要であるが、特に患者の服用している薬を確認することが重要である。ぜひ手元に一冊薬の本を用意してほしい。パーキンソン病の治療には現時点では薬物は欠かせないため、鍼治療等を希望する患者であっても必ず薬物を服用していることが多い。現在の患者の症状がパーキンソン病によるものなのか、あるいは薬物の長期投与による作用によるものなのかをしっかり把握しながら治療を継続していただきたい。
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