2016年10月28日 (金)

パーキンソン病の原因

パーキンソン病の患者数は10万人に100人~150人くらい(1000人に1人~1.5人)。60歳以上では100人に約1人(10万人に1000人)という割合で推移し、今も原因不明で難病に指定されている。

線条体のDA含量が成人レベ ルの20%以下に減少するとパーキンソン病症状が発症する。正常人でも線条体のDA含量は加齢とともに減少し、理論的には120歳で全てのヒトはパーキンソン病になるとさえ言われる。パーキンソン病は遺伝的素因に環境因子が様々な程度に加わって生じる多因子疾患だと考えられる。
参照論文→ https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/92/8/92_8_1394/_pdf

大脳の下にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少してドパミン神経が減ると体が動きにくくなり、ふるえも起こりやすくなる。ドパミン神経細胞が減少する理由はわかっていないが、ドパミン神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が凝集して蓄積し、ドパミン神経細胞が減少すると考えられていて、このαシヌクレインが増えないようにすることが、治療薬開発の大きな目標となっている。

30年程前の研究報告からあまり原因究明の進歩はなさそうだが、このページにはパーキンソン病の原因物質についての事例を記載。・・ボケの原因を探る(岩波新書)から抜粋

正常な脳の生理的老化やアルツハイマー型老人性痴呆の真の原因を探るための物質的な手がかりのうち、因果関係がはっきりしたものはほとんどない。ところが、老化に関係した病気のうち、もう一つの重要な病気であるパーキンソン病では、最近、ミステリー小説もどきの事件を発端として、真の原因を探る手がかりになる化学物質が判明した。

パ-キンソン病も老人に多く見られる病気で、五十歳ごろから発病し、七十歳以上では人口の約一%が患者といわれるほど多い。この病気の特徴は運動障害で、日常の動作が緩慢になり、手や指がふるえたり、筋肉が固くなって、字が書きにくくなることなどから気付かれる。このような症状は多かれ少なかれ他の正常の老人にもよく見られるので、アルツハイマー病と同じく、脳の老化の一つのパターンが顕著に進行した病気とも考えられている。

パーキンソン病患者の脳を調べてみると、黒質といわれる部分にある黒いメラニン色素をもったニユーロンがおかしくなり、死んでなくなっていることが主な病変であることは古くからわかっていた。この死んでしまうニユーロンはその神経繊維の先端が線条体という場所に連絡しているので、黒質-線条体系ニューロンともよばれ、手や足などの運動の調節を行っている。

そのため、この病気になると手や足の運動がうまくいかなくなるのである。のちに、この神経繊維の先端から放出され信号を伝える神経伝達物質がドーパミンであることがわかり、パーキンソン病患者の脳の黒質‐線条体ではドーパミンが著しく減少していることがわかった。また最近の研究により、黒質ニューロンの死によりドーパミンをつくるチロシン水酸化酵素という酵素や、その酵素を助けるテトラヒドロビオブテリンとよばれる物質の減少も起こっていることがわかった。そこで減ったドーパミンを増やすためにL‐ドーパとよばれる物質を投与するL―ドーパ療法が行われ、症状はよくなるようになった。

密造麻薬事件

しかしながら、〃黒質一一ユーロンがなぜ死ぬのか〃というこの病気の本当の原因については長い間、手がかりがなかった。ところが、米国で起こった思いもかけない〃事件″を発端に、この黒質ニューロンだけを殺してしまい、パーキンソン症状を引き起こす化学物質MPTPが発見されたのである。

1982年、カリフォルニア州で2642歳という若い年齢にもかかわらずパーキンソン病に似た著しい運動障害を起こす患者が4人も現れた。彼らは町で密売された新しい〃合成ヘロイン〃を使用していた。最初の患者の担当医は、この〃合成ヘロイン〃に何か毒物が含まれているのではないかと推理し、友人の女性毒性学者に相談した。たまたま彼女は数年前、雑誌に発表されていた論文を読んでいた。それは、次のような患者の例であった。

ワシントンに住むある大学院生が自宅で〃合成ヘロイン〃である1メチル‐4フェニル‐4プロピオノキシ‐ピペリジン(MPPP)を密造した。しかし彼は技術のまずさから不純物として1―メチル-4‐フェニルー1,2,3,6テトラヒドロピリジン(MPTP)が混入したものをつくってしまった。そして彼はそれに気がつかず、その〃不純ヘロイン〃を自分に注射してしまった。彼は急にパーキンソン症状を起こして、二年後に死亡してしまったという。

この大学院学生の脳を死後解剖したところ、黒質ニューロンは大きく破壊されていた。この物質が原因であることを証明しようとしてこの不純ヘロインをモルモットなどに注射してみたが、残念なからパーキンソン症状をつくり出すことはできなかった。

この重要な示唆を含む論文は、初めアメリカの主要な医学雑誌に投稿されたが、いずれも内容が不完全などの理由で掲載を断られてしまい、創刊されたばかりの新しい雑誌にようやく発表されたのである。

この論文を知って大きな手がかりを得たカリフォルニアの担当医らは、カリフォルニアの〃合成ヘロイン〃にもMPTPが混入していることを、感度のよい分析法で確かめた。彼らの論文はアメリカで最もよく読まれている科学雑誌である「サイエンス」に発表された。これによって多くの人が、にわかにMPTPと。パーキンソン病の関係に注目することとなった。

最終的には、米国国立衛生研究所の研究者が、MPTPを静脈注射したアカゲザルがパーキンソン症状を起こすことを証明し、カリフォルニアの事件の原因は究明された。しかも初めてパーキンソン病と同じような症状を実験動物にも起こすことができるようになった。

こうして大きな物質的手がかりが得られ、突破口が開かれたので、現在までにおびただしい数の研究が発表され、マウスなどでもMPTPが黒質ニューロンを死なせること、MPTPは体内のモノアミン酸化酵素などによって1メチル‐4フェニル‐ピリジニウムイオン(MPPイオン)に代謝され、本当の毒性をもつものは、このMPPイオンであることなどがわかった。

MPTPの発見は、実験動物モデルの作製ばかりでなく、パーキンソン病の研究、さらに脳の老化研究にとって、もう一つの重要な意義をもっている。それは自然に起こるパーキンソン病ではMPTPに似た、あるいは似た作用をもつ化学物質が体内に蓄積して、黒質ニューロンのみを殺すようにはたらいている可能性を示していることである。

確かに。パーキンソン病では、遺伝的要因はほとんど関係していないことが疫学的調査でわかっており、体外からとりこまれたり、または体内に何らかの理由によって生じたMPTP様物質がパーキンソン病を引き起こすらしい。

真の原因物質は?

したがって、MPTPを手がかりにパーキンソン病の真の原因物質を探究する研究が、次の大きな目標となってきた。19856月にニューヨークで開かれた第8回パーキンソン病国際シンポジウムで、カナダの神経学者,ハル-ボーらは、モントリオール市周辺での疫学調査にもとづき、農薬の使用量とパーキンソン病の発症率に相関があると発表し、注目された。従来の疫学者は、国単位で比較し、工業化の程度の異なる国の間でも発症率には差がないとして合成化学物質の関与を疑問視していたからである。

バルボーらは、モントリオール市の周辺では、人種構成や医療施設の利用度などに偏りが少なく原因調査がやりやすいことを利用し、5270例のパーキンソン病患者の分布を詳しく調べた。水系により九区に分け、居住地ごとの発症率を計算したところ、野菜・果樹栽培を中心とする近郊農業地帯で。パーキンソン病が多く見られ、さらに、木材・パルプエ場の周辺で、異常に率の高い〃ホットスポット〃が発見された。この農業地帯での多発については、もちろんさまざまな原因が考えられるが、彼らは同地帯でことに大量に使われている合成化学物質である農薬に注目した。農薬の使用量と発症率を九区すべてで比較すると、0.967という高い相関係数が得られた。

バルボーらの目か農薬に向けられたのは、パーキンソン病が産業革命後にでてきた新しい病気であることのほかに、MPTP、MPPイオンと非常によく似た化学構造をもつ除草剤.ハラコートの存在に気がついていたためだろう。パラコートは強い急性毒性をもっており、日本では自殺や自動販売機飲料への混入犯罪などで多くの人命を奪っていて、最近ついに使用が表面上自粛された、いわくつきの物質である。彼らは、カエルの。パーキンソン病モデルを使って、パラコートの慢性投与でカエル脳のドーパミン含量が低下し運動障害が起こることを報告し、パラコートなどの農薬類が原因物質の一つではないかと提唱している。

一方、永津俊治(藤田学園保健衛生大学)、吉田充男(自治医科大学)らは、MPTPやMPPイオンに似た物質のうち、1,2,3,4テトラヒドロイソキノリンをマウスやサルに連続投与し、ドーパミンをつくるチロシン水酸化酵素活性が線条体で減少していることを示し、イソキノリンと似ている化合物が生体内に蓄積して。パーキンソン病を起こす可能性と、イソキノリン類似化合物がドーパミンニューロン内で生合成される可能性を示唆している。

<ニューロン死をもたらす毒物>
いずれにしろ、パーキンソン病の特徴である黒質にあるドーパミンニューロンの変性には、さまざまな過程が考えられ、原因物質は一つとは限らない。一般にニューロンが長期に生存するためには、多数の物質代謝系と、その調節機能がすべて正常にはたらいていなければならないので、毒物の作用点も多くなる。

しかし、パーキンソン病の場合、なぜドーパミンニューロン、ことに黒質にあるものだけが死んでしまうのかを解明しなければならない。

また数日で症状がでてくるMPTPに比べ、自然のパーキンソン病は非常にゆっくりと症状が出てくる点も、毒物の生体内での代謝蓄積を考えねばならず問題となる。今後は、より直接的な疫学的調査のほかにMPTP類似物質を手がかりに、黒質のドーパミンニューロンヘの選択的毒性を指標にした毒性実験、細胞生物学実験がますます重要になってくるであろう。

MPTPがドパミンニューロンを変性脱落させるという因果関係ははっきりしている。MPTPは細胞内で代謝されたりしながら、さまざまな毒作用を細胞のあちこちで起こし、結果的にニューロンが変性するのであろう。これらの過程を明らかにするには、綿密な生化学的、毒性学的追跡が必要である。

2016年10月11日 (火)

パーキンソン病を治す

パーキンソン病を治す本 新潟大学 安保教授 より抜粋

現代医療でも、バーキンソン病の克服には、薬物療法とともに運動療法などのリハビリテーション(機能回復訓練)が重要であるとの認識が高まってきています。本書はそのうちの主に後者にスポットを当てたもの、と考えていただければわかりやすいかもしれません。

バーキンソン病の発症・進行の背景には、自律神経(意志とは無関係に体の働きを費整している神経)のバランスの乱れが存在し、薬に頼らなくても運動を含む生活療法、あるいは自律神経のバランスを整えて血流を促す治療によって症状を改善し、進行を食い止めることができる病気であるという事実を、私と開業医の福田稔先生の共同研究によって確立した「福田-安保理論」を土台に立証していきます。

「薬に頼らず自分自身のカで治す」-!-その信念を持って前向きに付き合っていくなら、バーキンソン病は決して恐れるべき病気ではないと私は信じています。バーキンソン病と診断された人、現在の治療に不安や疑問を感じた人は、病気と正しく向き合う道しるべとしてこの本を役立てていただければ幸いです。

パーキンソン病が起きるしくみ

人の体が思ったように動くためには、動かそうとする力と止めようとする力の微妙なバランスが必要です。線条体では体を動かそうとするドーパミンという物質と、体の動きをおさえようとするアセチルコリンという物質の割合によって、そのバランスをコントロールしています。バーキンソン病は、この線条体のドーパミンが減少することによりアセチルコリンが増加して、体を動かそうとする力と止めようとする力のバランスが崩れたときに起こります。すなわち、ドーパミンが滅って体を動かそうとする力が弱くなり、その-方ではアチルコリンが増えてからだを止めようとする力が強くなる為、自分から動こうとすることが極端に減ったり、動けなくなってしまうのです。

また振戦は、線条体の中の細かい運動の制御に関係してしに起こると考えられています。

ひとことでいえば、ドーパミンは器械を動かす油のようなものです。

<黒質の変性がドーパミン不足をもたらす。>

黒質の神経細胞からはそれぞれ長い突起が出ていて、線条体とつながっています。その突起の先から線条体に向かってドーパミンが分泌され、線条体の神経細胞にある受容体(センサー)がそれを受け取り‐運動指令を出していきます。すなわち、黒質の神経細胞が変性をきたし、減少すると、黒質で産生されるドーパミンの絶対量が減って、線条体ヘの供給量も不足していきます。そうして体を動かそうとする力が動きをおさえようとする力を下回るようになったとき、バーキンソン病が起こってくるわけです。

健康な人でも加齢にともなって神経細胞は少しずつ減少していきますが、バーキンソン病の患者さんの場合、ドーパミンを作る黒質の神経細胞が普通の人より若いうちから減少し、脳の中のドーパミン量が少なくなります。一般にドーパミンの量がもとの20%以下に減少すると、バーキンソン病の症状が起こるといわれています。また、自律神経症状は、中脳の黒質以外の縫線核、青斑核と呼ばれる組織に変性が起こると出現することもわかっています。

(抗コリン剤)についてのコメント☆

抗コリン剤=パーキンソン病では脳内のドーパミン不足の結果、相対的にアセチルコリンが過剰になります。この薬には、その過剰となったアセチルコリンの働きをおさえて、ドーパミンとのバランス状態を整える作用があり、とくに振戦や無動に有効とされています。ただし、副作用としてしばしばロの渇き、便秘、排尿困難などをともない、高齢者に大量に投与すると興奮・幻覚などの精神症状が出やすいことが知られています。また、長期に使用すると認知機能が低下してくる場合もあり、現在は主に振戦の強い患者さんにのみ使われています。

現在の薬物治療の効果には限界があるということを、認めざるをえないのが現実です。

にもかかわらず、医療の現場では、バーキンソン病は薬で症状のよくなる数少ない神経疾患として、長期にわたる薬の投与がさかんに行われています。2002年には日本神経学会から「バーキンソン病治療ガイドライン」が発表されて、今後はその傾向にもいつそう拍車がかかっていくことでしょう。

とりあえず症状を軽減させて、患者さんの苦痛を取り除く-.それは一見理にかなった医療行為のように思えます。しかし、その効果が一時的なものであり、結果的に病状が悪化していくのであれば、やはりその治療法はどこかが間違ってぃると考えざるをえません

また、何年、何十年と薬を使い続けるなら、少なくともその投与量は最小限におさえていくベきでしょう。しかし、L‐ドーパが効かなくなると投与量を増やし、L.ドーパの効きをよくする薬を追加して、副作用が生じれば今度はその副作用をおさえる薬が加わっていく:そんなサイクルの中で継続されているのが、現在のバーキンソン病治療の実態なのです。

<バーキンソン病を根本的に治すには

不足したドーパミンを薬で補うことで、とりあえず症状をおさえることはできるようになったとはいうものの、その一方では神経細胞もどんどん減少していく。つまり、現代医学では、ドーパミンの減少を促す神経細胞の死滅原因が突き止められていないから進行がおさえられないということで、バーキンソン病は難病とされているわけです。

しかし、少し視点を変えてみるなら、バーキンソン病は現代医学が恐れているほど難しい病気ではないことがわかります。結論から申し上げましょう。バーキンソン病は、自律神経(意志とは無関係に体の働きを調節している神経)の乱れに起因する脳の血流障害が原因の病気であり、自律神経のバランスを整えて脳の血流を改善させれば、現代医学では不可能とされている進行を食い止めることができるのです。細胞は血流によって酸素や栄養素を得ています。脳の血流が抑制されて血液が少なくなると、脳の神経細胞は酸素不足、と神経間の伝達物質の分泌力が衰え、栄養不足に陥り、活力を失っていきます。するとやがては細胞自身も死んでいく。これがパーキンソン病の原因なのです。

死んでしまった細胞は生き返らせることは出来ませんが、酸素や栄養不足で活力を失っている状態の細胞なら、そごに血液をどんどん流して新鮮な酸素と栄養を与えれば復活させることは可能です。

それにより細胞の死滅にも歯止めがかかり、バーキンソン病にともなう症状は改善されて、進行も止まるというわけです。また、バーキンソン病は老化が進むと発症する頻度が高まりますが、これには脳の動脈硬化の関与が考えられます。そして、動脈硬化を促す原因もまた自律神経のみだれにあるのです。自律神経の働きを乱す元凶はストレスです。「バーキンソン病は難病だから治らない」「家族に迷惑がかかるのが心苦しい」「動けなくなるなら死んだほうがまし」、そんなふうに落ち込んでいては、いっそう脳の血流は悪くなり、よくなるはずの病気も、かえつて悪くなってしまうでしょう。

●神経伝達物質か細胞を刺激する

自律神経は内臓の働きを調整する際、交感神経、副交感神経それぞれの末端から神経伝達物質というホルモンの一種を分泌します。それらの物質が全身の60兆個の細胞を刺激し、自律神経の指令を伝えることで、細胞は目的に向かって働きを同調させていくのです。

交感神経を刺.激する物質の代表はアドレナリンです。アドレナリンには心臓の鼓動を速め、血管を収縮させて血圧を上げる作用があります。その作用によって心身は緊張・興奮し、戦闘態勢モードに入っていきます。これに対し、副交感神経からはアセチルコリンという物質が分泌されます。アセチルコリンには心臓の鼓動を遅くし、血管を拡張して血圧を下げる作用があります。これにより体のスイッチはリラックスモードに切り替わり、臓器の分泌・排泄の働きも促進されます。

交感神経が優位になっているときは、60兆個の細胞すべてがアドレナリンの作用を受けて活動モードに入り、ほとんどの物質の分泌がストップします。副交感神経が優位のときは全ての細胞がアセチルコリンの作用を受けてリラックスモードに入り、食物を分解するための醗素(体内での化学反応を促す物質)を分泌したり、老廃物を排泄していくのです。

白血球は免疫システムの主役

私たちの体には「免疫」と呼ばれる自己防御システムが備わり、ウイルスや細菌、異種たんぱく(自分の体にはないたんぱく質)、ガン細胞などの攻撃から体を守っています。白血球は、この免疫システムの中で主役となって働く血球細胞です。白血球は血液-㎡当たり50008000個ほど含まれ、その95%は「顆粒球」と「リンパ球」で占められています(顆粒球は好中球、好酸球:好塩基球に分けられるが、顆粒球全体の95%は好中球のため、本書では顆粒球〓好中球と定義する)

顆粒球は真菌や細菌、古くなって死んだ細胞の死骸など、サイズの大きな異物を食べて処理する係で、通常は血液-㎡当たり≧36004000個、白血球全体の5460%を占めています。

顆粒球の警備力はたいへん高く、緊急時には23時間で通常の23倍にも増えます。けがなどで組織に炎症があるときには、顆粒球が12万個/㎡に達し、白血球全体の九割を占めることもあります。顆粒球の寿命は非常に短く、役目を終えるときは組織の粘膜にたどり着き、活性酸素を出して死んでしまいます。活性酸素は万病の元とよくいいますが、それは活性酸素には非常に強い酸化力があり、正常な細胞を次々に破壊してしまうからです。

顆粒球の比率が正常であれば、体内には活性酸素を無毒化する仕組みがあるので大事には至りませんが、増えすぎると無毒化するのは難しくなって、広範囲で組織破壊が起こるようになります。

一方のリンパ球はウイルス等の異物を攻撃するのが得意な細胞です。リンパ球は異物を「抗原」と認識すると抗原を無毒化する「抗体」と呼ばれるたんぱく質を作って対抗していきます。通常は白血球の3541%を占め、血液1㎡当たり2200個~3000個ほど含まれています。リンパ球には様々な種類があって、それぞれ働きが異なります。

ガン攻撃を得意とするNK細胞もリンパ球の一種です。この顆粒球とリンパ球を除いた5%が「マクロフアージ」です。マクロフアージはアメーバのような形をした細胞で、サイズの大きな異物を食べて殺したり、細胞から出た老廃物を食べて掃除したりします。またマクロファージは異物をかじって相手がどのような敵か判断し、異物の端をリンパ球や顆粒球に見せて知らせる役目も果たしています。これによりリンパ球や顆粒球が活性化し、異物の排除に働く態勢が整うわけです。

 

自律神経と免疫の関係

先に、自律神経を調整する際、交感神経はアドレナリンを、副-父感神経はアセチルコリンを分泌すると述べましたが、実は、白血球中の穎粒球にはアドレナリン、リンパ球にはアセチルコリンのレセプター(受容体)がそれぞれ存在することがわかっています。レセプターは細胞の膜上にあるたんぱく質の分子で、ある特定の物質を選んで結びつく性質があります。つまり、顆粒球にアドレナリンのレセプターがあるということは、顆粒球は交感神経(アドレナリン)に反応して活性化し、リンパ球は副交感神経(ァセチルコリン)に反応して活性化することを意味しています。このことから、自律神経は次のように白血球を調整していることになります。

●交感神経が優位になると、穎粒球が増えて活性化する

●酬交感神経か優位になると、リンパ球か増えて活性化する

この<父感神経=顆粒球、<副交感神経=リンパ球>というチーム編成は、生物が安全に暮らすうえで、実に理にかなったものでもあります。たとえば、交感神経が優位になっている日中の活動時には、手足に傷を負いやすく、傷口に細菌が侵入する機会が増えます。こういうときは、サイズの大きな細菌を食べてくれる顆粒球にいてもらったほうがよいわけです。

逆に、副交感神経が優位になっている夜間の休息時や食事をしているときには、消化酵素で分解された異種たんぱくやウイルスがどんどん入ってきます。これらはサイズが小さすぎて顆粒球では対応できないため、夜間は微小な異物処理の得意なリンパ球の出番となるわけです。実際、血液を採って調べてみると、昼間の活動時は交感神経が優位になって顆粒球が増え、夜間の休息時には副交感神経が優位になってリンパ球が増えています。こうして自律神経と白血球が連携することで、私たち人間は環境の変化に順応し、命を存続させる最良の状態を作り上げてきたのです。

ストレスによる自律神経の乱れか病気をつくる

●病気の七割以上は交感神経の緊張か原因

自律神経が体を病気から守る白血球の数と働きを調節しているという「福田-安保理論」は、すべての病気は自律神経の乱れによって引き起こされることを意味しています。

自律神経は健康なときでも-定のレベルに固定することなく、環境や状況の変化に対応して交感神経から副交感神経へ、副交感神経から交感神経へと揺れ戻ることで体のバランスをとっています。そして、それに連動して顆粒球とリンパ球の間でもバトンタッチが起こっているわけです。こうした自律神経の揺れは、生体にとってきわめて自然で健康な反応でもあります。シーソーのように-方に大きく傾いたあとは、もう一方に大きく傾く。この揺り戻しのバランスが保たれている限り、私たちが病気にかかることばなく、体調も良好に保たれます。問題は私たちの周囲には、いわゆるストレスという自律神経の揺り戻しのバランスを乱す要素が数多く存在していることです。この場合のストレスには、働きすぎや睡眠不足、対人関係による葛藤、心の深い悩みなどの心身のストレスに加え、薬の長期使用、排気ガス、農薬、環境ホルモン、電磁波なども含まれます。これらのストレスは自律神経のうちの主に交感神経を刺激して、過度な緊張を促し、副交感神経への戻りを悪くします。こうして自律神経が交感神経優位に傾きっぱなしになり、揺れ戻しのバランスが乱れてくると、副交感神経支配の消化器機能が低下して食欲不振や便秘に陥ったり、あるいは交感神経支配の循環器系の働きが亢進(さかんになること)して激しい動悸、不安感、切迫感などに見舞われるようになります。そして、ついにはいつも疲れた慢性疲労の世界に入り、さまざまな病気を発症させる引き金になっていくのです。私は、病気の少なくとも70%は、これらのストレスによる交感神経の過緊張によって起こっていると考えています。肩こり、腰痛などの不定愁訴からいわゆる生活習慣病、ガンにいたるまで、現代人が抱える病気のほとんどがここに掲げられているのです。そして、それらの中にバーキンソン病が含まれていることに、みなさんは気づかれたでしようか。

交感神経緊張状態かもたらす四悪

交感神経が一方的に緊張して自律神経のバランスが乱れると、免疫をつかさどる「自律神経―白血球」の連携があだとなり、次のような障害を引き起こしていきます。

①顆粒球過多による活性酸素の大量発生による組織破壊

自律神経のうち交感神経は、顆粒球の数と働きを支配しています。ストレスで交感神経の緊張が続くと顆粒球が増加して、そこから強力な酸化力を持つ活性酸素が大量に産生されます。それらの活性酸素が細胞を次々に酸化し、殺傷していくことで、組織破壊が拡大します。ちなみに、私たちの体内では呼吸で得た酸素から発生する活性酸素、細胞の新陳代謝から生じる活性酸素など、さまざまなルートで活性酸素が産生されていますが、活性酸素全体の比率では、穎粒球から放出されるものが七-八割を占めます。したがって、顆粒球が増加すればするほど、組織破壊も進むことになります。

②血流障害

交感神経が分泌するアドレナリンは、血管を収縮させる作用があります。そのため、交感神経の緊張が続くと、細胞が持続的にアドレナリンの作用を受けて全身で血流障害が起こつてきます。血液は全身の細胞に酸素と栄養を送り、老廃物や体にとつて不要なものを回収してぃます。血流障害によってこのサイクルが阻害されると、細胞に必要な酸素や栄養が届かず、老廃物が停滞するようになります。その結果、痛み物質や疲労物質がたまれば痛みやこりなどが現れますし、発ガン物質や有害物質が蓄積すれば発ガンを促します。それと同時に細胞そのものの活力も衰え、働きが低下していきます。

③リンパ球の減少

白血球中の顆粒球とリンパ球の比率は、その人の自律神経のバランスによって変動します。顆粒球とリンパ球は、いつも逆転した動きを示します。交感神経が緊張すると、副交感神経の働きがおさえられます。その結果、副交感神経の支配下にあるリンパ球の数が減り、働きが低下して、カゼをはじめとするウイルス感染などが起こりやすくなります。また、ガンを殺すNK細胞などの活性も低下します。

④排泄・分泌能の低下

交感神経が緊張し、副交感神経の働きがおさえられると、臓器・器官の排泄や分泌機能が低下します。これにより便や尿などが排泄しにくくなったり、各種ホルモンの分泌異常が起こったりするようになります。交感神経の緊張は、以上の①~④の障害を連鎖反応的に引き起こし、病気を発症しやすい体調・体質をつくり上げていきます。バーキンソン病も同じです。交感神経緊張状態が継続されるなかでこれらの障害がバーキンソン病を発症しやすい体質をつくり上-げ、老化とともにやがてその引き金が引かれることになるのです。

パーキンソン病は脳の血流障害で発症する

バーキンソン病の患者さんの脳内では、ドーパミンという神経伝達物質の減少が認められます。このため現代医学では、脳内ドーパミンを産生する黒質にスポットを当てて、バーキンソン病の原因究明がさかんに行われています。しかし、それが黒質であれどこであれ、細胞が障害される原因を突き詰めるなら、最終的には血流障害にたどり着きます。細胞は血液の循環を介して新鮮な酸素と栄養を受け取り、老廃物を排泄することで生命を保っています。もし血液の流れが停滞して酸素と栄養が届かなくなればその細胞は生きる糧を失い、やせ衰えて、やがて死滅していくしかないわけです。こうして細胞自身が起こす死をアポトーンスといいます。バーキンソン病も「脳の血流障害によって神経細胞のアポトーンスが促され、神経伝達物質の分泌が減少して発症してくる病気」ととらえれば、非常に理解しやすいのではないでしようか。さらに、「神経細胞の中でもドーパミン産生細胞は脳の中でも血流を豊富に要求し、血流障害の影響を受けやすい」と考えることで、バーキンソン病の患者さんの脳内でドーパミンが特異的に減少しているという現象に対しても、いちおうの説明はつくわけです。では、脳の血沈障害はどうして起こるのでしようか。ここで自律神経と白血球の関係を思い出してみてください。自律神経は白血球の数と働きを支配しています。自律神経のうち交感神経が優位になると、顆粒球が増えて活性化するということでした。交感神経と副交感神経がバランスよく働いているときの白血球は、顆粒球5460%、リンパ球3541%という比率に保たれています。しかし、交感神経の過度な緊張が続くとこの比率も乱れ、顆粒球の割合が高く、そのぶんリンパ球の割合が低くなります。すなわち、白血球中の顆粒球、リンパ球の比率を見ることで、自律神経の状態は容易に把握することができるのです。

ここ数年は福田先生に賛同し、自律神経免疫療法を行う医師も増えています。福田先生を含め、彼らは口をそろえたように「バーキンソン病患者の白血球は顆粒球過多だ」といいます。このように白血球が顆粒球過多の状態にあるということは、バーキンソン病はまぎれもなく-交感神経の緊張によって引き起こされる病気であることを示しています。つまり「交感神経が過度に緊張しているために脳の血流が悪くなりパーキンソン病の発症に至ることになるわけです。

このように、交感神経の緊張は血管を収縮させて機能的な血流抑制状態をつくり出すと同時に、それが長期に続くことにより、今度は活性酸素によって動脈硬化という器質的な血流抑制状態をつくり上げていきます。その影響が脳血管に及んだときにパーキンソン病という病気が発症してくるわけです。

交感神経の緊張を促す元凶は、働きすぎや、心の悩みに代表される、心身のストレスです。ガンは23年という比較的最近の強烈なストレスが引き金となって発症するケースが多いのに対し、動脈硬化という老化にともなうパーキンソン病は、強度的にはガンの引き金となるストレスと比べるとゆるやかなストレスが長期的に継続する中で形成される病気といえます。パーキンソン病の患者さんには性格的に「がんばり屋さんが多いのですが、ときには頑張りすぎが見えないストレスとなって、バーキンソン病を発症しやすい体質を作り上げているといえます。

L-ドーパ製剤はパーキンソン病を難治化させる。

交感神経が緊張状態にあると分泌される物質にはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの三種類があり、これらはまとめてカテコールアミンと呼ばれています。アドレナリンが分泌されると心臓の鼓動が高まり、血管は収縮して血圧が上がり、体は元気な活動モードに入ります。ドーパミンも交感神経を刺激し、緊張させる物質なので、分泌が促されると体は元気になります。もちろん、こうして体の中で自然に分泌されるドーパミンには問題はありません。ところが、L‐ドーパを飲むと一瞬にして体内のドーパミンの量が上昇し、交感神経が緊張することになります。L‐ドーパによるドーパミンの上昇は、脳だけでなく体全体に影響が及びます。その結果、もともと交感神経緊張状態にあって、脳の血流が低下しているバーキンソン病の患者さんは、いっそう激しい-父感神経緊張状態に陥ることになります。つまり、L-ドーパによって無理やり緊張を強いられた交感神経がさらなる脳血流の低下を促し、神経細胞のアポトーシスを促進するため、結果的に病状も悪化することになるわけです。

こうして自律神経に注目すれば、「パーキンソン病と診断された患者さんが治療をすると急に悪化していく」という謎の答えも容易に導き出すことができます。このように「脳の血流障害」という原因を無視した治療は行うべきではないと私は考えます。ちなみに、問題点を明確にするため、ここでは直接的にドーパミンを補充するL‐ドーパを例にとつて説明しましたが、抗バーキンソン病薬は作用のしかたが異なるだけです。いずれも最終的な目的は脳内のドーパミンの濃度を上昇させることにあります。したがって種類によって程度の差はあったとしても飲めば交感神経の緊張は促されることに変わりなく、症状の悪化は免れないでしょう。

 

パーキンソン病か改善する生活の知恵

みなさんは夜ふかしを続けるほどがんばりすぎてはいませんか?食事のリズムはきちんと保たれていますか? こうして生活パターンを見直し、本来あるべきリズムに戻したうぇで、次の事柄を実践していきましょう。交感神経の緊張は、全身に血流障害を引き起こします。バーキンソン病の患者さんの場合、その血流障害が脳に強く起こっています。ここでは、日常生活の中で積極的に副交感神経を刺激しながら、脳の血流状態を改善させる方法をご紹介します。

①適度な体操や運動動で体をほぐす

バーキンソン病では徐々に筋肉がかたまり、動かしにくくなっていきます。そこで、体をできるだけ動かし、体をほぐすようにしましょう。そうすればおのずと血流も促進されて、気分転換にも大いに役立ちます。その際、息が切れるような過度な運動は交感神経を興奮させますが、軽い運動を心地よいと感じる程度に行う場合は副交感神経刺激になります。

毎日同じ体操を続けていると、たとえば「最近は音楽のテンポに合わせて体が動くようになったな」「首もなめらかに回せるようになったな」など、自分自身で確実に成果を実感することができます。それを自信にしていけば、自律神経の働きにもよい影響を与えることができます。このほか、歩ける状態であれば杖をついてでも散歩をすること、日常生活の中で首を前後左右に倒したり、左右に大きく回す体操あるいは手首をブラブラ振る体操などを、こまめに行うことを心がけましよう。寝たきりになる前にできるだけ体を動かし、血流を促進させる。それがパーキンソン病の進行を抑制し、症状の改善を促す、最も効果的で確実な道なのです。

②ゆっくり入浴を楽しむ

お風呂好きの日本人にとつて、入浴の効用ははかりしれません。ゆったりとぉ湯につかれば血流がよくなって体も温まり、疲労感や筋肉のこわばりもスーツと消ぇていきます。体もさっぱり清潔になって、心身ともに最高にリラックスできます。なお、副交感神経の働きを誘導するには、3738℃くらいのややぬるめのお湯に、のんびりとつかるようにするのがコツです。

③よく笑う

落語、お笑い番組、コメディーなど、笑いは最高の副交感神経優位の世界です。笑いを誘うものをどんどん見ましょう。笑いすぎると涙や鼻水、よだれ、さらにオナラまで出てくることがあります。これは副交感神経が刺激されて全身の排泄・分泌能が最大になっているからです。

④食物繊維豊富な食事で便通を整える

自律神経は内臓の働きを調整していますが、内臓の運動が逆に自律神経を刺激し自律神経の働きを促すという作用もあります。パーキンソン病の人の大半は、交感神経の極度な緊張症状として頑固な便秘を抱えています。つまり、この頑固な便秘を解消するよう努めることで、副交感神経の働きも促すことができるのです。そのためにもキノコ類や海藻類を積極的に摂るようにしてください。これらの食品に含まれる食物繊維(不消化多糖類)は体内では消化できません。しかし腸はなんとかこれを消化しようとして腸内にとどめて一生懸命腸を動かします。腸管の蠕動運動(内容物を先の器官に送る働き)は副交感神経刺激となり、腸が動いているときは副交感神経が優位になります。また、食物繊維は腸内で発生する活性酸素の除去にも役立ちます。

⑤水をたっぷりと飲む

パーキンソン病では頻尿や尿が出にくいなどの排尿障害もよく現れますが、これも便秘と同じく交感神経緊張症状であり、積極的に排尿を促すことで、自律神経の働きを副交感神経優位にすることができます。それには、水をたっぷり飲んで泌尿器系を刺激することが大切です。

パーキンソン病の患者さんには高齢者が多く、夜間にトイレに行くのを嫌って水分摂取を控える人が多いのですが、それは逆効果です。そもそも睡眠中に目が覚めてしまうのは、本来副交感神経優位にあるべき自律神経が交感神経優位になっているからです。むしろ寝る前に積極的に水を飲み、尿の排泄を担う泌尿器系の臓器を活発に働かせることが、副交感神経の働きを高めて熟睡しやすい状況をつくってくれます。

「爪もみ療法」の勧め

福田稔先生が「家庭版の自律神経免疫療法」として考案された健康法です。手の指先には神経が密集しており、親指、人差し指、中指、小指の四本の爪の生え際を押しもみすると副交感神経が刺激され「効果的に自律神経を調整することができます。いつ、どこででもできる簡単な療法なので、ぜひ毎日の習慣に加えるとよいでしよう。

このほか福田穂先生は、頭部血液マッサージ

(もバーキンソン病の改善に有効であるといわれています。爪もみ療法と合わせて毎日23回行うとよいでしよう。

●頭部血液マッサージのやり方

熊手のように立てた指の腹で、頭頂部から耳の上、耳の前後、首ヘと、頭皮を上下に細かくこすりながら、血液をしごき下ろすようにマッサージする。これを四・五回くり返すのを、毎日23回行うとよいでしよう。

パーキンソン治療・兵庫県西宮市

パーキンソン病とパーキンソニズム に対する鍼灸治療

高齢社会の到来により中枢神経系の変性疾患、ことにパーキンソン病やパーキンソニズム患者は増加傾向にある。本疾患群が慢性、進行性の経過を示していることから、薬物療法を受けながらもなお、鍼灸治療を希望して来院する患者も増加していると思われる。

『パーキンソン病を治す本」(安保徹、水嶋丈雄、池田国義著・マキノ出版)が出版されて以来、多くのパーキンソン病およびパーキンソニズム患者が鍼灸治療を受けるようになった。

パーキンソン病を完治させる薬物療法や外科療法が確立されていない現在、安全性が高く、副作用の少ない鍼灸医学に大きな期待が寄せられていると言えよう。

本稿では、パーキンソン病とパーキンソニズムに対する鍼灸治療の方法について紹介し、鍼灸医学の本疾患群に対する可能性について考察した。

I鍼灸治療の対象となる症状についてパーキンソン病およびパーキンソニズムの3大症状は、振戦、筋固縮、動作緩慢とされている')。しかし、実際の診療現場では、患者は多彩な神経症状を有し、その症状の軽減を希望して来院される。その症状とは、自律神経障害としての便秘症や起立性低血圧(たちくらみ)や筋固縮に伴う発声障害、身体が傾く姿勢反射障害などである。

表1は、2003年1月から現在まで、明治鍼灸大学附属鍼灸センターおよび附属京都駅前鍼灸センターに来院した22例のパーキンソン病とパーキンソニズム患者の訴える愁訴の種類と例数について集計したものである。いずれの症例も、既に一般的な薬物療法を受けた上で鍼灸治療を開始しており、また、患者が鍼灸治療による改善を希望した症状の統計であるため、患者の有するすべての症状について検討できたわけではないが、表1に挙げた症状は実|際の鍼灸臨床において治療対象となる症状である。

表1. 22症例に認められた愁訴
 症状          例数
 歩行困難        12
 四肢のこわばり感   12
 振戦           7
 痛み           7
 発声困難        3
 動作緩慢        3
 書字障害        2
 便秘           2
 全身倦怠感      1
 抑うつ感        1

その結果、当然ながら、すり足歩行や歩行開始困難(startinghesitation)に代表される「歩行困難」、あるいは「四肢のこわばり感」、「振戦」などが、上位に認められる。注目されることは、「痛み」を症状とする症例が7例と、全体の3分の1の症例で認められることである。

しかし、パーキンソン病やパーキンソニズムにおいては疼痛は一般的な症状として捉えられていないのではないかと思われる。腰痛を訴える患者の中には、変形性腰椎症や肩関節周囲炎の併発がうかがわれる患者もあるが、パーキンソン病やパーキンソニズムに特徴的な筋固縮が変形性腰椎症や肩関節周囲炎による「痛み」を更に増強させているとも考えられる。

そして、こうした筋固縮に起因すると思われる疼痛症状は、患者の苦痛も大きく、QOLを著しく低下させている。一方、鍼灸治療が様々な疼痛疾患に対して鎮痛効果をもたらすことは、周知の事実である。

実際に筆者らのパーキンソン病とパーキンソニズムに対する鍼灸臨床においても、著しい
疼痛軽減を認めることが経験されており、疼痛は本疾患群に対する鍼灸治療の適応症状として提示できるのではないかと考えている。

その他にも、「全身倦怠感」や「抑うつ感」を訴える患者もみられた。各々の症状に対する
鍼灸治療の効果については、現在もなお治療中であるため、改めて報告すべきであると考えているが、今回の考察によって多彩な症状に苦しむ患者像が明らかになるとともに、鍼灸治療の果たすべき領域の広さがうかがわれた。

パーキンソン病とパーキンソニズム に対する鍼灸治療

1)中医学的な鍼灸治療方法
パーキンソン病とパーキンソニズムに特徴的な症状を直接説明した中医学的な記載は見当たらない。そこで筆者らは、パーキンソン病やパーキンソニズムにみられる症状のうち、最も代表的な症状の1つである振戦について中医学的に弁証し、これを本疾患群に対する中医学的な鍼灸治療の方法としている。

四肢の振戦は「手頭」と「足頭」に分けられる2)。「手顛」とは手の振戦のことであり、「肝
風」「風疾」「風寒」「脾虚風動」「血虚風動」「陰虚風動」に弁証分類される。また「足頭」とは足の振戦のことであり、「血虚風動」「風寒湿」に分類される。

パーキンソン病とパーキンソニズムにみられる振戦は、四肢ばかりでなく、頚部や下顎にも認められる。したがって「手頭」と「足頭」のみによって本疾患群の振戦すべてを分類することには不足な点もあるが、筆者らは「手頭」と「足頭」の弁証分類のうち、外邪の侵襲によるものを除いて、中枢神経系変性疾患に相当するものを弁証分類として応用している。

①肝風内動

精神的な興奮によって肝陽が亢盛し、内風が生じて筋が動くことにより振戦を呈するものである。肝火旺の体質(激情型、筋肉質、赤ら顔)者に多くみられる。振戦は急激に発症し、強い振戦を呈する。随伴症状として、頭のふらつき感、頭痛を示す。舌は紅または暗紅で、脈状は有力である。治則は平肝息風で、合谷、行間、風池、肝命を用いて潟法の刺激を行う。なお、本証は高血圧脳症としてみられるものであり、症状発症の急性期には西洋医学的な救急措置を必要とする。

②脾虚風動

脾虚に乗じて、相対的に肝風が内勤して振戦を生ずるものである。振戦は緩慢で間欠的である。随伴症状として、握力の減弱、疲労倦怠感、食欲不振、軟便などの脾虚症状がみられる。舌は胖大、淡泊、脈状は沈緩で無力である。治則は健脾定風で、中院、三陰交、脾命を用いて補法を行う。

③血虚風動

慢性病あるいは慢性失血性疾患によって心肝血虚となり、筋肉を栄養できずに振戦が発症するものである。振戦は軽度であるが、しびれ感、動悸、肌につやがない、皮膚掻痒などの血虚症状を併発する。舌は淡泊、脈は細で無力である。治則は養血總風で、血海、三陰交、胴愈を用いて治療する。

④陰虚風動
高齢化や慢性の熱病によって陰液を失い、肝腎陰虚をきたし、陰虚陽冗に伴って内風邪が生じて振戦を呈するものである。振戦は緩慢であり、口やのどの渇き、皮膚乾燥、るい痩などの陰虚症状を呈する。舌は暗紅または紅緯、脈は細である。治則は滋陰總風で、関元、復溜、照海、太鐇、腎愈を用いて治療を行う。

実際の臨床上は、パーキンソン病やパーキンソニズムでは陰虚風動、肝腎陰虚を呈する症例が多く、矢野ら3)も、総合的に弁証するとパーキンソン病は肝腎陰虚証が多くみられると報告している。

2)頭皮鍼療法

頭皮鍼療法は、中枢神経系の疾患に伴う運動障害や言語障害、感覚障害など幅広く用いられている。杉(中国)はパーキンソン病における振戦抑制のための舞踏振戦抑制区を用いた頭皮鍼療法を紹介し、山下らは、パーキンソン病患者を対象に同区への通電療法を行い、臨床的な効果を報告した。

頭皮鍼療法の基礎医学研究に関しては、赤川らがパーキンソン病モデルマウスを用いて頭皮への刺鍼の影響について報告している。西洋医学においても、樋口らは頭部への低電圧パルス療法がパーキンソニズム患者の、特に筋固縮の軽減に有効であったことを報告している。

筆者らも、数少ない症例ながら頭皮への刺激(主に横刺術)がパーキンソン病とパーキンソ
ニズム患者の症状を軽減させることを経験している。筆者らが主に用いる頭皮鍼の刺鍼領域は、運動区あるいは舞踏振戦抑制区である。

3)振戦に対する低周波置鍼療法
振戦を強く訴える患者に対しては、特に陽明系に対する低周波置鍼療法を行う。上肢であれば、曲池一合谷、下肢であれば、足三里一三陰交(あるいは下巨虚)を用い、2~5肱で筋収縮がみられるように通電する。振戦に合わせるように、あるいは振戦が通電によって打ち消されるように通電できれば、振戦を抑制できる効果が高いように思われる。

振戦の軽減を目的とした低周波置鍼療法については、山下らによっても報告されておりそ
の効果が認められている。また、矢野らは四肢への鍼通電刺激が中枢神経系に与える影響を脳波トポグラフィーを用いて明らかにした。

通電療法には、局所的に筋の緊張を緩和したり、瘻痛を抑制したりするなど幅広い生体(病態)への影響がうかがわれる。したがって、通電刺激が中枢神経系へ影響し、振戦を抑制する機序を持つ可能性が予測される。

4)自律神経症状等その他の症状に対する鍼灸治療
便秘、起立性低血圧、排尿障害などの自律神経症状は多くの患者にみられ、かつ患者のQOL低下の主要因であると感じられる。筆者らは、パーキンソン病やパーキンソニズムに関連した疾患としてShyEDrager症候群の1例に対する鍼灸治療を経験している。

ShyDrager症候群は振戦や筋固縮、動作緩慢といった症状を呈しながら、自律神経症状として著しい起立性低血圧を主症状とする疾患である。筆者らはShyDrager症候群に対して、命刺を中心とした鍼治療を行い、座位姿勢でも失神発作をきたすほどの起立性低血圧が、院内独歩可能となるなどの改善を得た。また角谷らは、パーキンソン病を基礎疾患とした尿失禁患者に対して中膠を用いた鍼治療を行い、膀胱機能の改善を得ている。

鍼灸刺激が自律神経を介して様々な治療効果を発現することや、自律神経機能を回復させることは知られており、パーキンソン病やパーキンソニズムにおける自律神経症状の改善は患者のQOL改善のために極めて有益である。

パーキンソン病とパーキンソニズムに対する鍼灸治療効果
1)対象

明治鍼灸大学附属病院を受診し、パーキンソン病またはパーキンソニズムと診断され、鍼灸治療を行った12症例。平均年齢は58.1歳、発症から鍼灸治療開始までの平均罹病期間は72カ月間であった。鍼灸治療の対象となった症状は、振戦10例、歩行困難8例、動作緩慢2例であった。また、薬物療法の副作用症状の1つである

口部の不随意運動であるOraldyskinesiaが3例に認められた。なお、2例は30歳以下で発症した若年性パーキンソン病であった。

2)治療方法
薬物療法は、11例で鍼灸治療開始以前までの内容が継続して行われた。1例については、当院に来院して診断を受け、投薬を開始した。

鍼灸治療はまず脳血管障害患者に用いる基本的な鍼治療(脳血管障害配穴)を行った。これは筆者ら明治鍼灸大学内科鍼灸グループにおいて、脳梗塞などの中枢神経系疾患に対して基本的に用いている治療穴である曲池、外関、合谷、環跳、足三里を用いる置鍼術(10分間)である。

また、振戦を強く訴える患者に対しては、前項に示すような低周波置鍼療法を行った。さらに患者によっては、弁証による鍼灸治療(随証療法)を行った。その結果、治療方法は3例で脳血管障害配穴を行い、3例で低周波置鍼療法、6例で随証療法を行った。

表2に患者のプロフィールと治療方法を示す。
3)治療結果
①治療直後の変化(図1)
全12例のうち、最も多くの症例でみられた振戦の10例については、6例で症状の軽減を認めた。また、全身のこわばり感や発声困難に対しても治療直後に一時的ながら症状の軽減を認めた。しかし、歩行困難や動作緩慢、Oraldysldnesiaには直後効果は認められなかった。

全体として12人の患者がもつ26症状のうち10症状で直後効果が認められた。このことは、薬物の影響なしに鍼灸刺激が臨床的な効果をもたらしたものと考えられる。

②治療終了時の変化(図2)
長期的な薬物療法と鍼灸治療の併用効果を治療終了時に評価した。その結果、12例中9例で臨床的な効果が認められた。症状の種類としては、歩行困難の改善が4例に、振戦の軽減が2例に、動作緩慢の改善が2例に認められた。また薬物療法の副作用であるOraldyskinesiaの軽減が1例に認められた。さらに、3例については日常生活を維持するための薬物投与量の減量が可能となった。

鍼灸治療のパーキンソン病とパーキンソニズムに対する位置付けを以下のように考察した。

①鍼灸治療によって振戦や筋固縮といった本疾患群に特徴的な症状や、瘤痛など本疾患群に随伴する症状を軽減することができる。

②症状の軽減が一時的あるいは短期間であっても、進行性の疾患であるパーキンソン病とパーキンソニズムにおいて、薬物投与量を維持したり、時には減量できたりする。

③便秘や起立性低血圧(めまい、立ちくらみ)、排尿障害といった自律神経症状の軽減によって、患者のQOLを向上させることができる。

本疾患群に対する西洋医学的治療法はL-ドーパ療法を中心に、神経保護療法や外科的療法など、治療法に対する研究は今日も開発が進んでいる。しかし、現実にはなお、慢性的な症状に悩む患者は多く、高齢者人口の増大に伴って、今後ともパーキンソン病やパーキンソニズム患者は増大すると考えられる。L-ドーパ療法などの薬物療法が常に副作用と隣り合わせであることと、本疾患群が慢性、進行性の疾患であることを鑑みれば、患者にとっては、より安全で継続可能な治療方法が望まれる

。こうした点からも、本疾患群に対する鍼灸治療の効果を明らかにすることは、極めて重要な課題であると考えられる。多くの鍼灸師(治療機関)の臨床効果を集結し、基礎研究を種み重ねて、高いEBMに則った鍼灸治療の実践を実現すべき時期にきているとも言えよう

パーキンソン病の理学療法

歩行機能改善に注目して・・
パーキンソン病は、大脳基底核疾患の代表的なものである。大脳基底核が障害されると、随意運動(以下、運動)の開始と持続が困難になる。そのためパーキンソン病の理学療法では、運動をどのように始めさせるか、また、どのように運動を持続させるかが重要になる。

パーキンソン病の理学療法の中でも運動療法に注目して述べることとする。まず、パーキンソン病の運動療法を行う際に必要な知識として、「大脳基底核機能と随意運動」について述べる。次に、「パーキンソン病の運動療法の基本的概念」、そして、「パーキンソン病の運動療法の具体的方法」について解説する。

I大脳基底核機能と随意運動”大脳基底核とは淡蒼球、尾状核、被殻、黒質、視床下核の総称である。運動にかかわる大脳基底核の働きは、「この動作をしよう」といった運動の動機づけや意志、すなわち内部刺激に反応して運動を計画することに作用する。そして、運動が合理的に行われるような姿勢保持(運動準備状態、いわゆるモーター・セット)に働く
ことで運動の開始を促す。また、運動学習後はその運動を特に意識せず実行することに作用している。

パーキンソン病では、患者は立位・歩行をはじめとした種々の動作において、下肢の動きに伴う体幹の動きが円滑でないために、動作とともにバランスを崩すという反応が生じる。これは大脳基底核が運動準備状態に正しく作用していないことの表れである。
このためパーキンソン病患者の動作は運動発現が困難であることが特徴となる。しかし、パーキンソン病患者は、運動発現を促すために音やリズムのような外部刺激を用いると運動が円滑になるという特徴ももっている。具体的には、階段や横断歩道のようにリズム感のある視覚刺激や、メトロノームや号令によるリズム感のある聴覚刺激により、すくみ足が改善されるという現象である。

この現象は、外部刺激による運動に関与しているのが小脳であるために、パーキンソン病の
ように内部刺激に反応して運動を発現させる大脳基底核が障害されている場合、患者が小脳の機能によって運動を実行していることから起こると考えられている。これによりパーキンソン病では、音などの外部刺激をきっかけとして用いることで運動改善の可能性があることがわかる。ただし外部刺激を用いて動作ができるからといって、疾患そのものが改善したわけではないことを認識しておく必要がある。

大脳基底核は、学習された運動企画の自動実行に関与している。ところが、パーキンソン病慰者は、外部刺激を用いた治療を行って歩行が可能になったとしても、運動の自動実行はできず歩行を継続することは困難である。そのため円滑に足を運ぶことが困難になり、いわゆる突進現象がみられることとなる。

パーキンソン病の運動療法、基本概念
次に、これらの大脳基底核の作用を理解したうえで必要な運動療法について述べる。
大脳基底核障害であるパーキンソン病の運動療法の大きな課題は、「どのように運動を始めて、その運動をどのように持続させるか」である。事実、運動療法を実施する私たちは、「なぜ、うまく運動を行うことができないのか」、「なぜ、その運動を持続することができないのか」がわからないと、質の高い運動療法を提供することができない。そこで治療者は患者の動作が困雌な理由を、動作分析から見つけ出さねばならない。
そのために必要な治療者の能力は、「動作を適切に観察できる能力」であり、解剖学・運動学の知識が重要となる。

では、実際に運動療法を行うために必要な評価過程2)と運動療法の基本的概念について述べる。パーキンソン病の運動療法は、なんでもいいから運動させるというものではなく、患者の主訴を解決できるような訓練方法を選択することが大切である。

そのため最初に主訴を聴取する際は、「痛い」、「動きにくい」という漠然としたものでなく、どのような日常生活活動が障害されているかを把握することが大切である。次に、その障害されている原因を分析することが必要になる。そのためには、実|畷の日常生活活動を治疲者の肉眼で観察(動作観察)しなければならない。そして動作観察の結果から、問題となる機能障害(関節可動域制限、筋力低下、感覚障害など)を予測して、実際にそれを裏づける検査を行うことで問題点を明らかにする(これを「動作分析」という)。この評価過程はトップダウンの評価過程と言われ、「患者に本当に必要な評価のみを行うために、短時間で評価できる」という長所がある。

しかし、動作観察をしても、その動作の問題点がわからない場合には、治療すべき問題点を見つけることができないので、適切な動作分析を行うためには、治療者は“センス”を向上させ、まず患者の動作を正常動作と瞬時に比較できるようになる必要があるだろう。

問題点が把握できれば、それを解決するように運動療法を行う。例えば、歩行ができない原因が下肢の関節可動域制限である場合には、関節可動域訓練を行うが、それだけで終わるのではなく、関節可動域の改善に伴って歩行能力が向上するかどうかを確認する。すなわち、機能障害レベルの問題点を治療することで、問題となった日常生活活動がどのように変化したかを明確にするのである。実際の運動療法では、盤得したい日常生活活動(例えば、「歩行」)に近い治療場面(例えば、「立位」、「ステップ動作」)で関節可動域や筋力を改善できて、その結果として歩行能力の向上につながることが理想である。

パーキンソン病の運動療法の具体的方法
パーキンソン病の運動療法を行う際には、前述のように、問題となる動作を適切に動作分析できることが大切である。

ここでは典型的なパーキンソン病の症例として、歩行は可能であるが、第1歩目をうまく出
すことができずに、歩いていると前方に突進してしまう患者(TT、女性、68歳)に行った歩行動作の改善を目的とした運動療法を紹介する。

本患者の立位姿勢の特徴は、筋強剛のために全体的に屈曲姿勢になっていることである。特に肩甲帯屈曲、胸椎後弩の影響で体幹屈曲が強く、下肢では股関節と膝関節に屈曲を認めるため、全体的に屈曲位での保持となっている。

また足関節は軽度底屈位である。このような姿勢では、立位において足圧中心は健常者と比較して後方に変位している。なぜなら足圧中心が健常者と同様であれば(足圧中心が現在の位置よりも前方に移動すれば)、全体的に屈曲位である体幹は前方に傾斜して不安
定になるので、患者はこれを避けるために、足圧中心を健常者よりも後方に変位させて姿勢を保持しているのである(図1)。

本患者は筋強剛により体幹の動きが不十分であるために、立位姿勢から歩行に移行する際、体幹が屈曲位のまま軽度に側方へ体重移動をする。またそれと同時に、股関節と膝関節をさらに屈曲させることにより歩行を開始している。

しかし、歩行中では後方に変位していた足底圧が前方に移動するために、体幹が徐々に前方に傾斜してしまい、歩行の不安定性を増加させているのである。
このような症例に対する運動療法は、まず立位姿勢を改善させることから始め、その上で可能であれば立位場面で運動療法を展開する。

具体的には、足圧中心を前方に移動させながら体幹と下肢の伸展を促す。この際、足圧中心を後方に残したまま体幹と下肢を伸展させると、後方に転倒してしまうので、足圧中心を前方に移動させることが重要となる。

また、治療者は一方の手を患者の胸骨部に、他方を脊柱中央部にあてがって、てこの原理を使って体幹を伸展させるのと同時に前方へ重心を移動させるが、「できるだけ手を軽く保持してハンドリング(治療者の操作のこと)しなければならない」。

と言うのも、治療者が手の圧を強くすればするほど、患者は治療者の手に頼ってしまい、体幹屈曲姿勢がさらに強くなるからである。これには注意を要する。

次にこの姿勢から、左右に重心を移動させる。左右への重心移動は、歩行を円滑にするために必要であり、また正しい歩行の立脚期を独得させるためには、体重を支持している下肢の動きが重要となる。

このとき、左右への重心移動はリズミカルに行うのではなく、足部の中央部分に体重が負荷されているのを確認しながら患者の身体全体を側方へ導き、重心移動を指導する(側方移動)。治療者によっては、患者の体幹を側方に傾斜させながら側方移動を行っている場面もみられるが、この方法では治療になるどころか、かえって歩行中に体幹が崩れることを学習させてしまう。

また正しい動作を獲得するための運動療法として、左右への側方移動を行うと同時に体幹回旋も誘導する。これも歩行動作を想定して、側方移動と同じように体幹を十分に伸展した状態で対側への体幹回旋を行うことが大切である。このとき、患者に意識させて体幹回旋運動を促すと、肩甲帯周囲筋や上肢筋の筋強剛のために両上肢だけで頑張ってしまうことがある。この上肢の頑張りは、上肢全体の筋緊張を冗進させるだけでなく、体幹筋、特に大胸筋や腹筋群などの屈筋群の筋緊張も冗進させてしまうため、注意が必要である。

次に、ここまでの運動療法で獲得した動きを歩行動作の中で再現できるようにするための前段階として、ステップ動作を取り入れる。ステップ動作は足を前後に開き、前に位置した足に体重をかけながら他側下肢を前方に出させる。

このとき、今まで述べた動作での注意点が解決できているかを検討する。そして、最後に歩行を行わせ、治療前と比較して歩容が改善したことを確認できれば歩行に対する運動療法を終了する。

本症例では、運動療法後における閉眼立位の前後方向の動揺平均中心変位は25.7mm前方(+25.7mm)であり、治療前と比較して明らかに前方へ変位し、健常者に近い結果になっていた。この結果、歩行においても治療前にみられた体幹前傾姿勢は改善し、安定して行えるようになっている。

パーキンソン病の運動療法では、まず患者の困っている日常生活活動を把握する。そして当該動作の動作分析を行い、得られた問題点を正常(健常者の動作)に修正するようにアプローチする。このような運動療法を行うためには、治療者として解剖学や運動学を基礎とする動作分析能力を高めることが必要となる。この評価過程と運動療法は、職種に関係なく行うことができ、かつ特別な機器を必要としないので、鍼灸院でも十分に行うことができるものである。

2016年10月 5日 (水)

パーキンソン病の鍼灸治療

パーキンソン病の鍼灸治療(水嶋クリニック事例)
パーキンソン病とは、中脳黒質のドーパミン作動性神経細胞の脱落とレビー小体の出現によって、①静止時振戦(安静時振戦)②筋固縮(筋強剛)③動作緩慢(無動)④姿勢反射障害の4大症状を呈することが特徴とされる疾患である。しかし、これ以外にも自律神経症状や精神症状を呈することも少なくない。また薬剤性や脳血管性、変性疾患によるパーキンソニズム(パーキンソン症候群)との遠いにも気をつけなければならない。

治療はL-ドーパ製剤(以下、L-ドーパ)が効果的であるが、顎から始まる振戦タイプや足の歩行障害から始まるタイプには、L-ドーパはなかなか効率的ではない。またL-ドーパは交感神経刺激剤であるため、交感神経系の症状が出現してしまうことがあり、有用な治療成績を上げられないケースもある。

パーキンソン病は、前述した4大症状で来院する場合はむしろ少なく、“足がもつれる”や"つまずきやすい”という主訴が多いために、初期の診断は専門医でも難しいことが多い。この場合、軽い静止時振戦があれば診断しやすいが、むしろ姿勢反射障害、つまり両手の回外・回内運動に左右差が出ることが多い。この場合はまずパーキンソン病を疑い、専門医に紹介することが肝要である。

初期の場合での治療は、L-ドーパやドーパミン作動薬が有用であることが多い。薬剤性パーキンソニズムの場合は、両側性の振戦よりも、むしろ動作緩慢や歩行障害が目立ち、振戦を認めても静止時よりも姿勢時振戦(上肢を挙上したときのように、筋肉がある程度の活動を持続している場合に起こる振戦)が多い。カルシウム拮抗剤や消化管運動機能改善薬を内服していないかを確認すると同時に、主治医に連絡してこれを体薬すると改善することが多々あるため、これは鍼灸治療の対象とはならない。

脳血管性パーキンソニズムの場合は、段階的な進行を示し、薬剤性パーキンソニズムと同じ症状の他、錐体路徴候の合併が多い。画像診断では大脳基底核領域のラクナ梗塞、前頭葉の梗塞、側脳室周囲の虚血性病変などを認める。この場合L-ドーパは無効で、アマンタジン(ドーパミン放出作用薬)が有効なことが多い。

変性疾患パ〒キンソニズムの場合は、自律神経症状の合併が多い。パーキンソン病に比べて予後が悪く、姿勢反射障害、四肢に比べ体幹での著しい筋固縮、そして頚部の後屈を特徴とする。またMRIのsagital像で中脳被蓋の萎縮を認める。これもL一ドーパは有用でなく、治療に難渋するところである。

<パーキンソン病の治療効果の測定>
パーキンソン病の鍼灸治療は効果があるのか。それを考察するため、パーキンソン病38例、脳血管性パーキンソニズム6例、変性疾患パーキンソニズム2例に鍼灸治療を施行したので報告する。効果を見るために、表1のような自覚症状と他覚症状の点数表(以下、SCORE表)を用いた。

次に血中ドーパミン濃度と脳脊髄液中ドーパミン濃度を比較して、脳脊髄液中ドーパミン濃度がパーキンソン病治療の評価項目として使用できるかどうかを考察した(表2)。

しかし、残念ながら、血中ドーパミン濃度と脳脊髄液中ドーパミン濃度に相関関係はでてこなかった。その原因は、セレギリン(MAO阻害薬)の作用機序から考えるに、体内活性酸素
の濃度が影響していることが大きいと思われる。

つまり、脳脊髄液中のドーパミン活性は活性酸素に影響を受けており、血中ドーパミン濃度が少なくても、活性酸素が少ないと脳脊髄液中の濃度は十分に保たれるものと考えられる。また、L-ドーパの投与にて血中ドーパミン濃度が上昇していても、活性酸素が多いと脳脊髄液中のドーパミン活性は低いままであることが推測されたので、今回、脳脊髄液ドーパミン濃度は鍼治療の効果を測定する項目から除外した。

自覚症状
 1.振戦 あり(顎・上肢・下肢) なし
 2.動作がのろく稚拙 あり なし
 3.歩行がのろく稚拙 あり なし
他覚症状
 1.振戦あり(安静時・姿勢時・動作時)なし
 2.寡動 仮面様顔貌 あり なし
      単調な言語 あり なし
      小刻み歩行 あり なし
      引きずり歩行 あり なし
      立ち直り反射障害 あり なし
  関節拘縮 
      右 あり(首・肩・手・股・膝・足) なし
      左 あり(首・肩・手・股・膝・足) なし
※該当する項目がll藍症であれば「あり」、もしくは「あり」の中に括弧で部位等が書かれている場合はその部位に○を付・け、1点と計算。それが迩症であれば、同様に◎を付け2点と計節する。つまり、軽症では最高で25点になるが、軽症では50点となる。

<血中ドーパミン濃度と脳脊髄液中ドーパミン濃度の比較>

なお、活性酸素と交感神経の緊張の程度については、新潟大学教授の安保徹先生の「白血球自律神経支配理論(交感神経が優位になれば白血球中の穎粒球が増加、副交感神経が優位になればリンパ球が増加するという説)」に基づき、末梢血リンパ球と願粒球の比率により推察することとした。

以上のことから、個々のパーキンソン病患者の末梢血リンパ球とSOD活性(SOD:活性酸素
分解酵素)、血中ドーパミン濃度を治療前後に測定して、さらに自覚症状と他党症状のSCORE表により、パーキンソン病の改善度を数値化した。

なお、リンパ球が増加し、蝋粒球が減少した場合、また本稿で用いた主な項目では、血中ドーパミン濃度が1000pg/ml以下の場合は増加、1000pg/ml以上の場合は減少(内服薬の関係で)、SOD活性が増加、SCORE表が減少していれば、治療効果があると考えていただきたい。

パーキンソン病の鍼灸治療の方法
パーキンソン病の鍼灸治療の効果を検討する前に、ここでパーキンソン病に対して行われる鍼灸治療の方法について考えてみたい。明治鍼灸大学の福田文彦らは、ラットを用い
た鍼灸治療における脳内モノアミンの増加について報告している。また上海中医薬大学など3施設からの報告では、鍼灸治療によるパーキンソン病の症状改善度は85.7%となっている。その中でもっとも有用とされているのは頭皮鍼であった。

確かに私が行っている治療でも、頭皮鍼を加えたものとそうでないものとでは症状の改善度に大きな遠いがあった。以下、頭皮鍼を用いた症例を報告するので、参考にされたい。

1)症例:68歳(男)
3年前からつまずきやすくなったとのことで、近医神経内科を受診。その結果、パーキンソン病の初期と診断された。L-ドーパを処方されたが、内服するも胃腸に負担がかかって飲
みたくないという。そこで当院を受診、薬以外で治療をしてほしいという。

検査をすると、血中ドーパミン濃度17pg/ml、SOD活性2.2U/ml、白血球5600(/ml)、血中におけるリンパ球の割合が28%であったため、鍼灸治療の適応と判断。遠方の患者だったこともあり、患者の自宅近くの鍼灸院を勧めた。

ところが、1カ月経って当院に来院したところ、手に振戦があり、歩行障害も改善していなかった。「鍼治療後はだるくなりませんか」と聞くと、「大変上手な先生で治療後も全くだるさはなく、体が軽くなる」という。そこで再検査を行った結果、血中ドーパミン濃度が5pg/ml以下、SOD活性2.8U/ml、白血球6000(/ml)、リンパ球35%と、副交感神経が優位となっているのに、血中ドーパミン濃度だけが減少していた。

これでは症状はとれない。そのため、頭に鍼を打ってもらっていますかと尋ねると、「いいえ」という。ぜひ頭皮に鍼を打ってもらってくださいと念押しし、患者も「わかりました」と帰っていった。

さらに1カ月後、患者は明るい表情で再度来院され、歩行障害も手の振戦もすっかりよくな
ったという。果たして血中ドーパミン濃度は22pg/mlになっていた。

2)副交感神経を優位にする治療
ここで重要なことは、ほとんどのパーキンソン病患者は交感神経が優位となっている点である。また、活性酸素を減らすことが治療の基本なので、鍼灸治療も副交感神経優位の治療をしなければいけない。この点は前・筑波技術短期大学学長の西條一止先生の論文に詳しいので参考にされたい。

要は呼気・座位・浅鍼(皮膚より4mmまで)ある。阿是穴治療では絶対に副交感神経が優位にならないということを肝に銘じておいていただきたい。当院では、交感神経と副交感神経の検討は、前述のように「白血球自律神経支配理論」にならい、リンパ球と順粒球を基準にしている。それに基づいた阿是穴治療と本治法を比較した結果は、表3のようになり、阿是穴治療では交感神経優位になってしまうのである。

つまり、副交感神経優位の鍼灸はいわゆる本治法と呼ばれる手技がこれにあたる。鍼灸治療には経絡治療や良導絡治療、北辰会方式など種々あるが、それらはもちろんのこと、中医学でも副交感神経優位の治療はできる。

本稿では浅見鉄男先生(内科医)の手技を基本として、安保先生と開業医の福田稔先生の考案された「自律神経免疫療法」を採用した。

以上をまとめると、下記のようになる。
①まず副交感神経の刺激のため、患者の全身状態をよく観察しながら四診とくに脈診により、“風”の存在部位(パーキンソン病は中医学で風に属する)を診断する(肝風や血風など)。
②手足の三焦経と胆経を除く井穴と去風(①で診断した)穴を刺激する。
③首の胸鎖乳突筋の緊張をよく観察し、緊張の強い側の耳介上部にぶよぶよしたポイントを見つけ(山元式頭皮針より)、ここを横刺し手足の振戦のリズムに合わせ捻転刺激する(これを週1回程度続けると、徐々に自覚症状が改善される)。

<表3 末梢血リンパ球と穎粒球の割合>

例えばある67歳の女性は肝陽化風によるパーキンソン病であったため、治療は、手足の井穴(三焦経と胆経を除く)を単刺、太衝、陽輔、足三里、大杼、肝命、腎愈に置鍼(肝腎の陰液を増加・三焦経と胆経の篭熱を解消・風をとる)、右頭皮振戦区に横刺捻転となる。
ただくれぐれも忘れてはいけないのは、鍼灸治療とは個々の患者で経穴が変わるのが「その本」であるということである。すなわち「この経穴が有効だ」とは断言できず、経穴の解説は大変むずかしいのである。

<パーキンソン病の治療結果>
以上を基本に、本治法としてセイリンディスポ鍼01番を用い、標治法としてセイリンディスポ鍼1番にて、パーキンソン病患者の頭皮に刺激をした。刺激には用手法を基本とし、症状に合わせ通電や灸頭鍼を併用した。治療を開始する前にSCORE表の記入と、リンパ球血中ドーパミン濃度およびSOD活性の検査を実施し、週1回の治療を基本として1カ月後に、再び同じ項目を調査した。

その結果が表4である。そのうち症状の改善をみたもPは21例で、原則としてL-ドーパは継続して服用してもらっていたが、勝手に服薬を中止してしまったのが症例3と症例5、それに症例12であった。特に症例5はドーパミン以外にアドレナリンが12pg/ml、ノルアドレナリンが76pg/m@と低値であったため、L-ドーパを中断してしまうことで、体が動かなくなってしまった症例である。これはくれぐれも自己判断で薬をやめてはいけない教訓となるケースである。

一方、症例6や症例8,症例14は劇的な症状の改善をみて、L-ドーパを休止できた例である。また、それ以外にも15例はL-ドーパを減量することができた。しかし、6例は症状の変化を認めず、また、前述した自己判断でL-ドーパを中止した3例は、著しい症状の悪化をみた。

表4パーキンソン病の鍼灸治療(血中ドーパミン濃度1000pg/ml以下の群)