パーキンソン病を治す本 新潟大学 安保教授 より抜粋
現代医療でも、バーキンソン病の克服には、薬物療法とともに運動療法などのリハビリテーション(機能回復訓練)が重要であるとの認識が高まってきています。本書はそのうちの主に後者にスポットを当てたもの、と考えていただければわかりやすいかもしれません。
バーキンソン病の発症・進行の背景には、自律神経(意志とは無関係に体の働きを費整している神経)のバランスの乱れが存在し、薬に頼らなくても運動を含む生活療法、あるいは自律神経のバランスを整えて血流を促す治療によって症状を改善し、進行を食い止めることができる病気であるという事実を、私と開業医の福田稔先生の共同研究によって確立した「福田-安保理論」を土台に立証していきます。
「薬に頼らず自分自身のカで治す!」・・その信念を持って前向きに付き合っていくなら、バーキンソン病は決して恐れるべき病気ではないと私は信じています。バーキンソン病と診断された人、現在の治療に不安や疑問を感じた人は、病気と正しく向き合う道しるべとしてこの本を役立てていただければ幸いです。
パーキンソン病が起きるしくみ
人の体が思ったように動くためには、動かそうとする力と止めようとする力の微妙なバランスが必要です。線条体では体を動かそうとするドーパミンという物質と、体の動きをおさえようとするアセチルコリンという物質の割合によって、そのバランスをコントロールしています。バーキンソン病は、この線条体のドーパミンが減少することによりアセチルコリンが増加して、体を動かそうとする力と止めようとする力のバランスが崩れたときに起こります。すなわち、ドーパミンが滅って体を動かそうとする力が弱くなり、その-方ではアチルコリンが増えてからだを止めようとする力が強くなる為、自分から動こうとすることが極端に減ったり、動けなくなってしまうのです。
また振戦は、線条体の中の細かい運動の制御に関係してしに起こると考えられています。ひとことでいえば、ドーパミンは器械を動かす油のようなものです。
<黒質の変性がドーパミン不足をもたらす。>
黒質の神経細胞からはそれぞれ長い突起が出ていて、線条体とつながっています。その突起の先から線条体に向かってドーパミンが分泌され、線条体の神経細胞にある受容体(センサー)がそれを受け取り‐運動指令を出していきます。すなわち、黒質の神経細胞が変性をきたし、減少すると、黒質で産生されるドーパミンの絶対量が減って、線条体ヘの供給量も不足していきます。そうして体を動かそうとする力が動きをおさえようとする力を下回るようになったとき、バーキンソン病が起こってくるわけです。
健康な人でも加齢にともなって神経細胞は少しずつ減少していきますが、バーキンソン病の患者さんの場合、ドーパミンを作る黒質の神経細胞が普通の人より若いうちから減少し、脳の中のドーパミン量が少なくなります。一般にドーパミンの量がもとの20%以下に減少すると、バーキンソン病の症状が起こるといわれています。また、自律神経症状は、中脳の黒質以外の縫線核、青斑核と呼ばれる組織に変性が起こると出現することもわかっています。
☆ (抗コリン剤)についてのコメント☆
抗コリン剤: パーキンソン病では脳内のドーパミン不足の結果、相対的にアセチルコリンが過剰になります。この薬には、その過剰となったアセチルコリンの働きをおさえて、ドーパミンとのバランス状態を整える作用があり、とくに振戦や無動に有効とされています。ただし、副作用としてしばしばロの渇き、便秘、排尿困難などをともない、高齢者に大量に投与すると興奮・幻覚などの精神症状が出やすいことが知られています。また、長期に使用すると認知機能が低下してくる場合もあり、現在は主に振戦の強い患者さんにのみ使われています。
・・紹介者の蛇足(不足したドーパミン量にアセチルコリンを抑え、制限するということは生命力全体を衰えさせる、一時しのぎの邪道だと私は考えている。マウスの実験で脳神経活動が著しく低下した状態も拝見している。)
現在の薬物治療の効果には限界があるということを、認めざるをえないのが現実です。
にもかかわらず、医療の現場では、バーキンソン病は薬で症状のよくなる数少ない神経疾患として、長期にわたる薬の投与がさかんに行われています。2002年には日本神経学会から「バーキンソン病治療ガイドライン」が発表されて、今後はその傾向にもいつそう拍車がかかっていくことでしょう。
とりあえず症状を軽減させて、患者さんの苦痛を取り除く・・それは一見理にかなった医療行為のように思えます。しかし、その効果が一時的なものであり、結果的に病状が悪化していくのであれば、やはりその治療法はどこかが間違ってぃると考えざるをえません。
また、何年、何十年と薬を使い続けるなら、少なくともその投与量は最小限におさえていくベきでしょう。しかし、L‐ドーパが効かなくなると投与量を増やし、L.ドーパの効きをよくする薬を追加して、副作用が生じれば今度はその副作用をおさえる薬が加わっていく:そんなサイクルの中で継続されているのが、現在のバーキンソン病治療の実態なのです。
<バーキンソン病を根本的に治すには
不足したドーパミンを薬で補うことで、とりあえず症状をおさえることはできるようになったとはいうものの、その一方では神経細胞もどんどん減少していく。つまり、現代医学では、ドーパミンの減少を促す神経細胞の死滅原因が突き止められていないから進行がおさえられないということで、バーキンソン病は難病とされているわけです。
しかし、少し視点を変えてみるなら、バーキンソン病は現代医学が恐れているほど難しい病気ではないことがわかります。結論から申し上げましょう。バーキンソン病は、自律神経(意志とは無関係に体の働きを調節している神経)の乱れに起因する脳の血流障害が原因の病気であり、自律神経のバランスを整えて脳の血流を改善させれば、現代医学では不可能とされている進行を食い止めることができるのです。細胞は血流によって酸素や栄養素を得ています。脳の血流が抑制されて血液が少なくなると、脳の神経細胞は酸素不足、と神経間の伝達物質の分泌力が衰え、栄養不足に陥り、活力を失っていきます。するとやがては細胞自身も死んでいく。これがパーキンソン病の原因なのです。
死んでしまった細胞は生き返らせることは出来ませんが、酸素や栄養不足で活力を失っている状態の細胞なら、そごに血液をどんどん流して新鮮な酸素と栄養を与えれば復活させることは可能です。
それにより細胞の死滅にも歯止めがかかり、バーキンソン病にともなう症状は改善されて、進行も止まるというわけです。また、バーキンソン病は老化が進むと発症する頻度が高まりますが、これには脳の動脈硬化の関与が考えられます。そして、動脈硬化を促す原因もまた自律神経のみだれにあるのです。自律神経の働きを乱す元凶はストレスです。「バーキンソン病は難病だから治らない」「家族に迷惑がかかるのが心苦しい」「動けなくなるなら死んだほうがまし」、そんなふうに落ち込んでいては、いっそう脳の血流は悪くなり、よくなるはずの病気も、かえって悪くなってしまうでしょう。
●神経伝達物質か細胞を刺激する
自律神経は内臓の働きを調整する際、交感神経、副交感神経それぞれの末端から神経伝達物質というホルモンの一種を分泌します。それらの物質が全身の60兆個の細胞を刺激し、自律神経の指令を伝えることで、細胞は目的に向かって働きを同調させていくのです。
交感神経を刺.激する物質の代表はアドレナリンです。アドレナリンには心臓の鼓動を速め、血管を収縮させて血圧を上げる作用があります。その作用によって心身は緊張・興奮し、戦闘態勢モードに入っていきます。これに対し、副交感神経からはアセチルコリンという物質が分泌されます。アセチルコリンには心臓の鼓動を遅くし、血管を拡張して血圧を下げる作用があります。これにより体のスイッチはリラックスモードに切り替わり、臓器の分泌・排泄の働きも促進されます。
交感神経が優位になっているときは、60兆個の細胞すべてがアドレナリンの作用を受けて活動モードに入り、ほとんどの物質の分泌がストップします。副交感神経が優位のときは全ての細胞がアセチルコリンの作用を受けてリラックスモードに入り、食物を分解するための醗素(体内での化学反応を促す物質)を分泌したり、老廃物を排泄していくのです。
白血球は免疫システムの主役
私たちの体には「免疫」と呼ばれる自己防御システムが備わり、ウイルスや細菌、異種たんぱく(自分の体にはないたんぱく質)、ガン細胞などの攻撃から体を守っています。白血球は、この免疫システムの中で主役となって働く血球細胞です。白血球は血液-㎡当たり5000~8000個ほど含まれ、その95%は「顆粒球」と「リンパ球」で占められています(顆粒球は好中球、好酸球:好塩基球に分けられるが、顆粒球全体の95%は好中球のため、本書では顆粒球〓好中球と定義する)。
顆粒球は真菌や細菌、古くなって死んだ細胞の死骸など、サイズの大きな異物を食べて処理する係で、通常は血液-㎡当たり≧3600~4000個、白血球全体の54~60%を占めています。
顆粒球の警備力はたいへん高く、緊急時には2~3時間で通常の2~3倍にも増えます。けがなどで組織に炎症があるときには、顆粒球が1~2万個/㎡に達し、白血球全体の九割を占めることもあります。顆粒球の寿命は非常に短く、役目を終えるときは組織の粘膜にたどり着き、活性酸素を出して死んでしまいます。活性酸素は万病の元とよくいいますが、それは活性酸素には非常に強い酸化力があり、正常な細胞を次々に破壊してしまうからです。
顆粒球の比率が正常であれば、体内には活性酸素を無毒化する仕組みがあるので大事には至りませんが、増えすぎると無毒化するのは難しくなって、広範囲で組織破壊が起こるようになります。
一方のリンパ球はウイルス等の異物を攻撃するのが得意な細胞です。リンパ球は異物を「抗原」と認識すると抗原を無毒化する「抗体」と呼ばれるたんぱく質を作って対抗していきます。通常は白血球の35~41%を占め、血液1㎡当たり2200個~3000個ほど含まれています。リンパ球には様々な種類があって、それぞれ働きが異なります。
ガン攻撃を得意とするNK細胞もリンパ球の一種です。この顆粒球とリンパ球を除いた5%が「マクロフアージ」です。マクロフアージはアメーバのような形をした細胞で、サイズの大きな異物を食べて殺したり、細胞から出た老廃物を食べて掃除したりします。またマクロファージは異物をかじって相手がどのような敵か判断し、異物の端をリンパ球や顆粒球に見せて知らせる役目も果たしています。これによりリンパ球や顆粒球が活性化し、異物の排除に働く態勢が整うわけです。
自律神経と免疫の関係
先に、自律神経を調整する際、交感神経はアドレナリンを、副交感神経はアセチルコリンを分泌すると述べましたが、実は、白血球中の穎粒球にはアドレナリン、リンパ球にはアセチルコリンのレセプター(受容体)がそれぞれ存在することがわかっています。レセプターは細胞の膜上にあるたんぱく質の分子で、ある特定の物質を選んで結びつく性質があります。つまり、顆粒球にアドレナリンのレセプターがあるということは、顆粒球は交感神経(アドレナリン)に反応して活性化し、リンパ球は副交感神経(ァセチルコリン)に反応して活性化することを意味しています。このことから、自律神経は次のように白血球を調整していることになります。
●交感神経が優位になると、穎粒球が増えて活性化する
●副交感神経か優位になると、リンパ球か増えて活性化する
この交感神経=顆粒球、副交感神経=リンパ球、というチーム編成は、生物が安全に暮らすうえで、実に理にかなったものでもあります。たとえば、交感神経が優位になっている日中の活動時には、手足に傷を負いやすく、傷口に細菌が侵入する機会が増えます。こういうときは、サイズの大きな細菌を食べてくれる顆粒球にいてもらったほうがよいわけです。
逆に、副交感神経が優位になっている夜間の休息時や食事をしているときには、消化酵素で分解された異種たんぱくやウイルスがどんどん入ってきます。これらはサイズが小さすぎて顆粒球では対応できないため、夜間は微小な異物処理の得意なリンパ球の出番となるわけです。実際、血液を採って調べてみると、昼間の活動時は交感神経が優位になって顆粒球が増え、夜間の休息時には副交感神経が優位になってリンパ球が増えています。こうして自律神経と白血球が連携することで、私たち人間は環境の変化に順応し、命を存続させる最良の状態を作り上げてきたのです。
ストレスによる自律神経の乱れか病気をつくる
●病気の七割以上は交感神経の緊張か原因
自律神経が体を病気から守る白血球の数と働きを調節しているという「福田-安保理論」は、すべての病気は自律神経の乱れによって引き起こされることを意味しています。
自律神経は健康なときでも一定のレベルに固定することなく、環境や状況の変化に対応して交感神経から副交感神経へ、副交感神経から交感神経へと揺れ戻ることで体のバランスをとっています。そして、それに連動して顆粒球とリンパ球の間でもバトンタッチが起こっているわけです。こうした自律神経の揺れは、生体にとってきわめて自然で健康な反応でもあります。シーソーのように一方に大きく傾いたあとは、もう一方に大きく傾く。この揺り戻しのバランスが保たれている限り、私たちが病気にかかることはなく、体調も良好に保たれます。問題は私たちの周囲には、いわゆるストレスという自律神経の揺り戻しのバランスを乱す要素が数多く存在していることです。この場合のストレスには、働きすぎや睡眠不足、対人関係による葛藤、心の深い悩みなどの心身のストレスに加え、薬の長期使用、排気ガス、農薬、環境ホルモン、電磁波なども含まれます。これらのストレスは自律神経のうちの主に交感神経を刺激して、過度な緊張を促し、副交感神経への戻りを悪くします。こうして自律神経が交感神経優位に傾きっぱなしになり、揺れ戻しのバランスが乱れてくると、副交感神経支配の消化器機能が低下して食欲不振や便秘に陥ったり、あるいは交感神経支配の循環器系の働きが亢進(さかんになること)して激しい動悸、不安感、切迫感などに見舞われるようになります。そして、ついにはいつも疲れた慢性疲労の世界に入り、さまざまな病気を発症させる引き金になっていくのです。私は、病気の少なくとも70%は、これらのストレスによる交感神経の過緊張によって起こっていると考えています。肩こり、腰痛などの不定愁訴からいわゆる生活習慣病、ガンにいたるまで、現代人が抱える病気のほとんどがここに掲げられているのです。そして、それらの中にバーキンソン病が含まれていることに、みなさんは気づかれたでしようか。
交感神経緊張状態かもたらす四悪
交感神経が一方的に緊張して自律神経のバランスが乱れると、免疫をつかさどる「自律神経―白血球」の連携があだとなり、次のような障害を引き起こしていきます。
①顆粒球過多による活性酸素の大量発生による組織破壊
自律神経のうち交感神経は、顆粒球の数と働きを支配しています。ストレスで交感神経の緊張が続くと顆粒球が増加して、そこから強力な酸化力を持つ活性酸素が大量に産生されます。それらの活性酸素が細胞を次々に酸化し、殺傷していくことで、組織破壊が拡大します。ちなみに、私たちの体内では呼吸で得た酸素から発生する活性酸素、細胞の新陳代謝から生じる活性酸素など、さまざまなルートで活性酸素が産生されていますが、活性酸素全体の比率では、穎粒球から放出されるものが七-八割を占めます。したがって、顆粒球が増加すればするほど、組織破壊も進むことになります。
②血流障害
交感神経が分泌するアドレナリンは、血管を収縮させる作用があります。そのため、交感神経の緊張が続くと、細胞が持続的にアドレナリンの作用を受けて全身で血流障害が起こつてきます。血液は全身の細胞に酸素と栄養を送り、老廃物や体にとつて不要なものを回収してぃます。血流障害によってこのサイクルが阻害されると、細胞に必要な酸素や栄養が届かず、老廃物が停滞するようになります。その結果、痛み物質や疲労物質がたまれば痛みやこりなどが現れますし、発ガン物質や有害物質が蓄積すれば発ガンを促します。それと同時に細胞そのものの活力も衰え、働きが低下していきます。
③リンパ球の減少
白血球中の顆粒球とリンパ球の比率は、その人の自律神経のバランスによって変動します。顆粒球とリンパ球は、いつも逆転した動きを示します。交感神経が緊張すると、副交感神経の働きがおさえられます。その結果、副交感神経の支配下にあるリンパ球の数が減り、働きが低下して、カゼをはじめとするウイルス感染などが起こりやすくなります。また、ガンを殺すNK細胞などの活性も低下します。
④排泄・分泌能の低下
交感神経が緊張し、副交感神経の働きがおさえられると、臓器・器官の排泄や分泌機能が低下します。これにより便や尿などが排泄しにくくなったり、各種ホルモンの分泌異常が起こったりするようになります。交感神経の緊張は、以上の①~④の障害を連鎖反応的に引き起こし、病気を発症しやすい体調・体質をつくり上げていきます。バーキンソン病も同じです。交感神経緊張状態が継続されるなかでこれらの障害がバーキンソン病を発症しやすい体質をつくり上-げ、老化とともにやがてその引き金が引かれることになるのです。
パーキンソン病は脳の血流障害で発症する
バーキンソン病の患者さんの脳内では、ドーパミンという神経伝達物質の減少が認められます。このため現代医学では、脳内ドーパミンを産生する黒質にスポットを当てて、バーキンソン病の原因究明がさかんに行われています。しかし、それが黒質であれどこであれ、細胞が障害される原因を突き詰めるなら、最終的には血流障害にたどり着きます。細胞は血液の循環を介して新鮮な酸素と栄養を受け取り、老廃物を排泄することで生命を保っています。もし血液の流れが停滞して酸素と栄養が届かなくなればその細胞は生きる糧を失い、やせ衰えて、やがて死滅していくしかないわけです。こうして細胞自身が起こす死をアポトーンスといいます。バーキンソン病も「脳の血流障害によって神経細胞のアポトーンスが促され、神経伝達物質の分泌が減少して発症してくる病気」ととらえれば、非常に理解しやすいのではないでしようか。さらに、「神経細胞の中でもドーパミン産生細胞は脳の中でも血流を豊富に要求し、血流障害の影響を受けやすい」と考えることで、バーキンソン病の患者さんの脳内でドーパミンが特異的に減少しているという現象に対しても、いちおうの説明はつくわけです。では、脳の血沈障害はどうして起こるのでしようか。ここで自律神経と白血球の関係を思い出してみてください。自律神経は白血球の数と働きを支配しています。自律神経のうち交感神経が優位になると、顆粒球が増えて活性化するということでした。交感神経と副交感神経がバランスよく働いているときの白血球は、顆粒球54~60%、リンパ球35~41%という比率に保たれています。しかし、交感神経の過度な緊張が続くとこの比率も乱れ、顆粒球の割合が高く、そのぶんリンパ球の割合が低くなります。すなわち、白血球中の顆粒球、リンパ球の比率を見ることで、自律神経の状態は容易に把握することができるのです。
ここ数年は福田先生に賛同し、自律神経免疫療法を行う医師も増えています。福田先生を含め、彼らは口をそろえたように「バーキンソン病患者の白血球は顆粒球過多だ」といいます。このように白血球が顆粒球過多の状態にあるということは、バーキンソン病はまぎれもなく交感神経の緊張によって引き起こされる病気であることを示しています。つまり「交感神経が過度に緊張しているために脳の血流が悪くなりパーキンソン病の発症に至ることになるわけです。
このように、交感神経の緊張は血管を収縮させて機能的な血流抑制状態をつくり出すと同時に、それが長期に続くことにより、今度は活性酸素によって動脈硬化という器質的な血流抑制状態をつくり上げていきます。その影響が脳血管に及んだときにパーキンソン病という病気が発症してくるわけです。
交感神経の緊張を促す元凶は、働きすぎや、心の悩みに代表される、心身のストレスです。ガンは2~3年という比較的最近の強烈なストレスが引き金となって発症するケースが多いのに対し、動脈硬化という老化にともなうパーキンソン病は、強度的にはガンの引き金となるストレスと比べるとゆるやかなストレスが長期的に継続する中で形成される病気といえます。パーキンソン病の患者さんには性格的に「がんばり屋さんが多いのですが、ときには頑張りすぎが見えないストレスとなって、バーキンソン病を発症しやすい体質を作り上げているといえます。
L-ドーパ製剤はパーキンソン病を難治化させる。
交感神経が緊張状態にあると分泌される物質にはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの三種類があり、これらはまとめてカテコールアミンと呼ばれています。アドレナリンが分泌されると心臓の鼓動が高まり、血管は収縮して血圧が上がり、体は元気な活動モードに入ります。ドーパミンも交感神経を刺激し、緊張させる物質なので、分泌が促されると体は元気になります。もちろん、こうして体の中で自然に分泌されるドーパミンには問題はありません。ところが、L‐ドーパを飲むと一瞬にして体内のドーパミンの量が上昇し、交感神経が緊張することになります。L‐ドーパによるドーパミンの上昇は、脳だけでなく体全体に影響が及びます。その結果、もともと交感神経緊張状態にあって、脳の血流が低下しているバーキンソン病の患者さんは、いっそう激しい-父感神経緊張状態に陥ることになります。つまり、L-ドーパによって無理やり緊張を強いられた交感神経がさらなる脳血流の低下を促し、神経細胞のアポトーシスを促進するため、結果的に病状も悪化することになるわけです。
こうして自律神経に注目すれば、「パーキンソン病と診断された患者さんが治療をすると急に悪化していく」という謎の答えも容易に導き出すことができます。このように「脳の血流障害」という原因を無視した治療は行うべきではないと私は考えます。ちなみに、問題点を明確にするため、ここでは直接的にドーパミンを補充するL‐ドーパを例にとつて説明しましたが、抗バーキンソン病薬は作用のしかたが異なるだけです。いずれも最終的な目的は脳内のドーパミンの濃度を上昇させることにあります。したがって種類によって程度の差はあったとしても飲めば交感神経の緊張は促されることに変わりなく、症状の悪化は免れないでしょう。
パーキンソン病が改善する生活の知恵
みなさんは夜ふかしを続けるほどがんばりすぎてはいませんか? 食事のリズムはきちんと保たれていますか? こうして生活パターンを見直し、本来あるべきリズムに戻したうえで、次の事柄を実践していきましょう。交感神経の緊張は、全身に血流障害を引き起こします。バーキンソン病の患者さんの場合、その血流障害が脳に強く起こっています。ここでは、日常生活の中で積極的に副交感神経を刺激しながら、脳の血流状態を改善させる方法をご紹介します。
①適度な体操や運動動で体をほぐす
バーキンソン病では徐々に筋肉がかたまり、動かしにくくなっていきます。そこで、体をできるだけ動かし、体をほぐすようにしましょう。そうすればおのずと血流も促進されて、気分転換にも大いに役立ちます。その際、息が切れるような過度な運動は交感神経を興奮させますが、軽い運動を心地よいと感じる程度に行う場合は副交感神経刺激になります。
毎日同じ体操を続けていると、たとえば「最近は音楽のテンポに合わせて体が動くようになったな」「首もなめらかに回せるようになったな」など、自分自身で確実に成果を実感することができます。それを自信にしていけば、自律神経の働きにもよい影響を与えることができます。このほか、歩ける状態であれば杖をついてでも散歩をすること、日常生活の中で首を前後左右に倒したり、左右に大きく回す体操あるいは手首をブラブラ振る体操などを、こまめに行うことを心がけましよう。寝たきりになる前にできるだけ体を動かし、血流を促進させる。それがパーキンソン病の進行を抑制し、症状の改善を促す、最も効果的で確実な道なのです。
②ゆっくり入浴を楽しむ
お風呂好きの日本人にとつて、入浴の効用ははかりしれません。ゆったりとぉ湯につかれば血流がよくなって体も温まり、疲労感や筋肉のこわばりもスーツと消ぇていきます。体もさっぱり清潔になって、心身ともに最高にリラックスできます。なお、副交感神経の働きを誘導するには、37~38℃くらいのややぬるめのお湯に、のんびりとつかるようにするのがコツです。
③よく笑う
落語、お笑い番組、コメディーなど、笑いは最高の副交感神経優位の世界です。笑いを誘うものをどんどん見ましょう。笑いすぎると涙や鼻水、よだれ、さらにオナラまで出てくることがあります。これは副交感神経が刺激されて全身の排泄・分泌能が最大になっているからです。
④食物繊維豊富な食事で便通を整える
自律神経は内臓の働きを調整していますが、内臓の運動が逆に自律神経を刺激し自律神経の働きを促すという作用もあります。パーキンソン病の人の大半は、交感神経の極度な緊張症状として頑固な便秘を抱えています。つまり、この頑固な便秘を解消するよう努めることで、副交感神経の働きも促すことができるのです。そのためにもキノコ類や海藻類を積極的に摂るようにしてください。これらの食品に含まれる食物繊維(不消化多糖類)は体内では消化できません。しかし腸はなんとかこれを消化しようとして腸内にとどめて一生懸命腸を動かします。腸管の蠕動運動(内容物を先の器官に送る働き)は副交感神経刺激となり、腸が動いているときは副交感神経が優位になります。また、食物繊維は腸内で発生する活性酸素の除去にも役立ちます。
⑤水をたっぷりと飲む
パーキンソン病では頻尿や尿が出にくいなどの排尿障害もよく現れますが、これも便秘と同じく交感神経緊張症状であり、積極的に排尿を促すことで、自律神経の働きを副交感神経優位にすることができます。それには、水をたっぷり飲んで泌尿器系を刺激することが大切です。
パーキンソン病の患者さんには高齢者が多く、夜間にトイレに行くのを嫌って水分摂取を控える人が多いのですが、それは逆効果です。そもそも睡眠中に目が覚めてしまうのは、本来副交感神経優位にあるべき自律神経が交感神経優位になっているからです。むしろ寝る前に積極的に水を飲み、尿の排泄を担う泌尿器系の臓器を活発に働かせることが、副交感神経の働きを高めて熟睡しやすい状況をつくってくれます。
「爪もみ療法」の勧め
福田稔先生が「家庭版の自律神経免疫療法」として考案された健康法です。手の指先には神経が密集しており、親指、人差し指、中指、小指の四本の爪の生え際を押しもみすると副交感神経が刺激され「効果的に自律神経を調整することができます。いつ、どこででもできる簡単な療法なので、ぜひ毎日の習慣に加えるとよいでしよう。
このほか福田穂先生は
頭部血液マッサージもバーキンソン病の改善に有効であるといわれています。爪もみ療法と合わせて毎日2~3回行うとよいでしよう。
●頭部血液マッサージのやり方
熊手のように立てた指の腹で、頭頂部から耳の上、耳の前後、首ヘと、頭皮を上下に細かくこすりながら、血液をしごき下ろすようにマッサージする。これを四・五回くり返すのを、毎日2~3回行うとよいでしよう。
パーキンソン治療・兵庫県西宮市